岩国市ミクロ生物館

岩国市ミクロ生物館 メールマガジンバックナンバー

◇=============================================◇
 このメールは、過去にミクロ生物館主催の行事に
 参加された皆様、およびミクロ生物館からの情報
 配信を希望された皆様にお送りしています。各種
 お問い合わせ、配信停止についてはこのメールの
 後方をご覧ください。
◇=============================================◇

■━━  岩国市ミクロ生物館ニュース  ━━■
       --- 第 6 3 号 ---

  * * * * ミクロの世界にようこそ! * * * *

“本誌はミクロ生物好きな方のネットワークづくり
サポートを目的として発刊されました。ここでしか
得られない情報など特典盛りだくさんで毎月26日
(26日が火曜日の場合は27日)に配信致します。
ぜひご活用ください!”

<目次>

☆ミクロ生物スペシャルコラム
 “多細胞生物に直走る(ひたはしる)ゴニウムと
  プラチドリナ”
    筑波大学大学院 生命環境科学研究科
       構造生物科学専攻  博士課程
       茨城県立竹園高等学校  教諭
                 飯田 仁

1】大震災の被害に遭われた方々に心からお見舞い
  申し上げます

2】今年も模型作り体験や体験学習会にぴったりの
  季節がやってきました!

3】2月27日から3月26日までのミクロ生物館NEWS

4】<お知らせ>4月の休館日について

◎ 編集後記


☆---------------------------------------------☆
      ミクロ生物スペシャルコラム
☆---------------------------------------------☆

  *** 多細胞生物に直走る(ひたはしる)
          ゴニウムとプラチドリナ ***

  飯田 仁 (IIDA、 Hitoshi)
      筑波大学大学院 生命環境科学研究科
         構造生物科学専攻  博士課程
         茨城県立竹園高等学校  教諭


※ 本コラムは以下のURLの図を参照しながらご覧
  ください。
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page352.html


 ボルボックスを野外のため池で見つけたときの感激
は、今でも鮮明に覚えています。池の水を透明なビン
で掬うと緑の粒が優雅に泳いでしていました。高校の
教科書では、ボルボックスについて細胞群体(単細胞
生物と多細胞生物の中間的生物)の例として扱われて
おり、多細胞生物への進化の過程にある生物であると
教えてきましたが、正直、半信半疑のところもあり
ました。しかし、大学院でボルボックス目の藻類
(以下、ボルボックス藻類)の研究を本格的に始め、
“単細胞から多細胞への進化が急激に進んでいる生物
群”であることをあらためて知りました。

 さて、今回のコラムでは、多くが球状の形をして
いるボルボックス藻類の中では珍しい、平板状の形を
した「ゴニウム」と「プラチドリナ」という生物を
紹介し、そのような平板状の形態がどのように形成
されるのか、私の研究を交えて紹介したいと思います。

 太古の昔、この地球に生命が誕生した頃は、単細胞
生物だけだったと考えられています。それらの中に、
多細胞へと進化した生物がいました。その多細胞化の
進化はいろいろな系統群(生物のグループ)で、
いろいろな時期に起こったに違いありません。
そして、長い年月を経て現生のさまざまな多細胞生物
が出現してきたと考えられています。多細胞化の進化
の例は、陸上植物や動物以外でも見ることができます。
ここで紹介するボルボックス藻類がまさにそうです。
しかも、ボルボックス藻類はクラミドモナスのような
単細胞生物から多細胞生物に進化する初期の過程を
連続的に観察できる貴重な生物群です。ボルボックス
藻類における複雑な体制への進化の過程として、個体
を構成している細胞数が 4、8、16、32、64、128、
50、000個と増加することや、細胞壁が次第に厚く
なったり、細胞が分離しないように細胞どうしを
つなぐ管(原形質連絡)が形成されたり、動物の
体細胞のようにある時間が来ると死ぬ細胞が出現
したりする例が知られています。
また、ボルボックス藻類は多細胞に進化する過程で
獲得したと考えられるおもしろい挙動を見せてくれ
ます。それはインバージョン(細胞シートの反転)
という運動です。ボルボックスの子供は、親個体の
中で生殖細胞(次の世代になる細胞)が何回か細胞
分裂してできます。しかし、どういうわけか、細胞
分裂が終了すると運動装置である鞭毛がボール状や
お椀状になった胚の内側に生えている状態になります。
この状態では子供のボルボックスは遊泳できません。
そのため細胞シートを反転させるインバージョン
という現象が見られます。このインバージョンにより
鞭毛が外側を向き、遊泳が可能になります。
このインバージョンは、多細胞生物として生活する
ためにボルボックス藻類が編み出した必殺技と
いえます。

 ボルボックス藻類の中には平板状の形をした種が
います。ゴニウム(図A)とプラチドリナ(図B)です。
多くの種が球体をしている中で、ユニークな形を
しています。
それでは、これらの平板状の形はどのように作られる
のでしょうか?ボルボックス藻類の多くが胚をつくる
過程において、細胞分裂が終了すると、お椀状や球体
をしています。個体の最終的な形は細胞分裂後に
起こるインバージョンで決まります。
ゴニウムは、お椀の角度が浅くなるだけで、インバー
ジョンが不完全に終わり、結果として反転せず平板状
になります(図Cの1)。プラチドリナの場合は球体
のボルボックスのように完全に反転するインバー
ジョンを起こしますが、その後、風船から空気を抜く
ように2層の細胞シートが接着し、さらに各細胞は
互いの細胞と細胞の隙間に入り込み、空気を入れない
風船のような2層の平板状の個体になります(図Cの2)。
このように、同じ平板状ボルボックス藻類でも、
インバージョンが不完全なタイプと完全なタイプが
存在します。

 それでは、このインバージョンのしくみはどのように
なっているのでしょうか? ボルボックスのインバー
ジョンの進行に中心的な役割を果たしているのが細胞間
に存在する原形質連絡です。ボルボックスのインバー
ジョンでは、この原形質連絡の移動と細胞の形態変化
が同時に起き細胞シートの反転が起きます。ゴニウム
やプラチドリナのインバージョンではどうでしょうか?
これまでの私たちの研究によると、ゴニウムにおいて、
原形質連絡が機能していることが示唆されましたが、
細胞の形態変化は見られませんでした。一方、プラチ
ドリナでは、原形質連絡の移動と細胞形態の変化が
生じます。この点ではボルボックスと同様です。
しかし、プラチドリナではインバージョンの後、さらに
細胞シートが接触し、上下の細胞が互いに細胞間に
入り込むような独特の現象を起こします。この現象を
起こすしくみはまだはっきりわかっていませんが、
別なメカニズムが働いていると私たちは考えています。

 ここ数年、ボルボックス藻類の系統関係は分子系統樹
(遺伝子の比較)で述べられるようになりました。
それによると、ゴニウムは原始的でボルボックスが最も
進化し、プラチドリナはその中間に位置しています。
前述のようにインバージョンについてもゴニウムは
不完全ですが、プラチドリナとボルボックスは完全で、
インバージョンから見た進化の過程は、遺伝子での
系統関係からも支持されています。

 また、これまでの私たちの研究により、ボルボックス
藻類の中で原始的であると考えられているゴニウムに
おいて、胚の細胞間に原形質連絡が存在していたことを
初めて明らかにしました。よって、胚の細胞間を
つないでいる原形質連絡は多細胞化の過程の中でも
基本的な段階であると考えています。そして、ほとんど
のボルボックス藻類は成体になると原形質連絡は消え、
代わりに細胞壁が厚くなりますが、一部のボルボックス
藻類で、成体の細胞間にも原形質連絡が存在します。
しかし、その形成過程はまだよくわかっていません。

 現在、ボルボックス藻類を材料として、多細胞化の
メカニズムを遺伝子・形態の両面からアプローチする
研究が進められており、多細胞化においてどのような
遺伝子が変化し、新たな形質を獲得してきたかが徐々に
明らかになってきています。分子メカニズムの知見と
細胞形態学的な研究の蓄積により、今後、単細胞から
多細胞へ進化の過程がより詳細に見えてくるでしょう。


<参考文献>
さらに詳しくは以下の論文をご参照ください。
Iida、 H.、 Nishii、 I.、 Inouye、 I. 2011.
Embryogenesis and cell positioning in Platydorina
caudata (Volvocaceae、 Chlorophyta). Phycologia、
in press.


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

1】大震災の被害に遭われた方々に心からお見舞い
  申し上げます

3月11日に発生した東日本大震災により犠牲になら
れた方々のご冥福をお祈りしますとともに、被害に
遭われた皆様には謹んでお見舞い申し上げます。
また、被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し
上げます。

過去に阪神・淡路大震災の被害に遭った神戸大学の
附属図書館には「震災文庫」が設けられており、
このうち、幾つかの資料については、デジタルギャラ
リーの形でインターネット上より閲覧いただくことが
可能となっております。

神戸大学附属図書館 震災文庫
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/eqb/

震災文庫デジタルギャラリー
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/eqb/dlib/index.html

今後の復興のためのご参考までに、これらの資料を
ご活用いただければと存じます。

また、被災により研究活動を行うことが困難な院生、
学生の方を対象に、研究室が復旧するまでの期間、
当館にて研究活動を進めていただくことも可能です
(ただし、設備は限られています。また、宿泊場所が
別途必要です。設備について、詳しくは
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page135.html
をご覧ください。設備利用料の発生は消耗品実費
のみと致します)。

これら以外にも、当館では可能な限りのお手伝いを
させていただきたいと考えております。
何かございましたら、お気軽に以下のアドレス
micro@shiokaze-kouen.net
までご相談ください。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

2】今年も模型作り体験や体験学習会にぴったりの
  季節がやってきました!

春の気配が感じられつつある今日この頃。ミクロの
世界も賑やかになってきました!

ミクロ生物館では、各種体験学習会を、今年も随時
開催しております。

各イベントとも、事前の予約は必要ですが、平日、
休日問わず、可能な限り、皆様のご希望の日程に
開催することが可能です。

ぜひ、この機会に、ミクロの世界の生き物たちと
友達になってみられてはいかがでしょうか?

イベント内容の詳細、ご予約は以下のアドレスにて
受け付けております。
どれも、ご家族やグループでのご参加にぴったりの
内容です。

ミクロ生物の模型作り体験
(作れる種類が増えました!)
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page327.html

海のミクロ生物探検
(田んぼや池の水でも対応可能!)
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page261.html

ひと足早い自由研究も大歓迎でお受け致します!
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page135.html

クリオネたちも元気ですよ!
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page350.html
もしかすると、ゴールデンウィーク中も展示している
かも!?

皆様のご参加、心よりお待ち申し上げます。

また、当館では草花芽吹く4月に大規模な調査を
行い、その成果を展示に活かす予定です。
こちらもお楽しみに!!

※ 諸事情により、企画展の展開が遅れ勝ちとなって
おります。誠に申し訳ございません。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

3】2月27日から3月26日までのミクロ生物館 NEWS

※ 詳細は各記事下のURLをご参照ください。

3月13日>
岩国市民科学講座「五感で感じるミクロの世界」を
実施しました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page517.html

3月20日>
広島大学大学院の加藤先生がご来館されました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page518.html

3月23日>
岩国高校生物部の皆様が当館にて部活動を実施しました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page520.html


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

4】<お知らせ>4月の休館日について

館内設備保守・点検、職員出張等のため、誠に勝手
ながら以下の日程を休館日とさせていただきます。
なにとぞご了承くださいますよう、よろしくお願い
申し上げます。

4月15日(金) 22日(金) 25日(月)

※ 諸事情により、休館日が変更になる場合がござい
ます。最新の情報は予定表
http://www.shiokaze-kouen.net/content/calendar.php
をご覧ください。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

★―――――――――――――――――――――
  編集後記
 ―――――――――――――――――――――
 今回の震災で被害に遭われた方のことを思うと
 胸が痛みます。心から、深く、深くお見舞い
 申し上げます。当館の運営もまだまだ一筋縄では
 いかないことだらけですが、被災地や原発内で
 命を賭けて頑張っておられる方々のことを思う
 と、全く以てたいしたことではありません。
 一人でできることは僅かですが、日頃から「社会
 のためにすべきこと、できることは何か」を常に
 考え、行動するよう、引き続き心掛けたいと
 思います。被災された皆様、当館でお力添えでき
 ることがございましたら、ぜひお気軽にご相談
 ください。一日も早い復興を心より祈念申し上げ
 ます。              (末友)
 ―――――――――――――――――――――★

●岩国市ミクロ生物館 お問い合わせ先
 住所:〒740-1431
 山口県岩国市由宇町有家浦
 潮風公園みなとオアシスゆう 交流館内
 Fax:0827-62-0156(24時間受付)
 E-mail:micro@shiokaze-kouen.net
 Website: http://shiokaze-kouen.net/micro

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
●次号の配信日は 4月26日です。お楽しみに!

---------------------------------------------
岩国市ミクロ生物館ニュースは、これからも
内容の充実に努めてまいります。
皆様のご意見、ご感想等、お待ちしております。
---------------------------------------------

発信元: 岩国市ミクロ生物館
館長・メールマガジン担当: 末友 靖隆

Copyright(c)2011 Iwakuni City Microlife Museum.
All rights reserved.
*本誌の無断複製・転載を禁止します。
転載を希望される方はミクロ生物館までご連絡
ください。

*本メールマガジンのレイアウトは、以下のフォント
での閲覧に最適化しております。
Windows: MSゴシック
Macintosh: 平成角ゴシック
岩国市ミクロ生物館 山口県岩国市由宇町潮風公園みなとオアシスゆう交流館内 TEL 0827-62-0160 [メール]