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岩国市ミクロ生物館
岩国市ミクロ生物館 メールマガジンバックナンバー
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このメールは、過去にミクロ生物館主催の行事に
参加された皆様、およびミクロ生物館からの情報
配信を希望された皆様にお送りしています。各種
お問い合わせ、配信停止についてはこのメールの
後方をご覧ください。
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■━━ 岩国市ミクロ生物館ニュース ━━■
--- 第 5 8 号 ---
* * * * ミクロの世界にようこそ! * * * *
“本誌はミクロ生物好きな方のネットワークづくり
サポートを目的として発刊されました。ここでしか
得られない情報など特典盛りだくさんで毎月26日
(26日が火曜日の場合は27日)に配信致します。
ぜひご活用ください!”
<目次>
☆ミクロ生物スペシャルコラム
“繊毛虫テトラヒメナの核膜孔:
2種類の核に運び分けできる理由”
情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究センター
専攻研究員 岩本 政明
1】11月7日(日)に“科学の祭典in岩国”を開催
2】(予告)今後の展示更新予定について
3】9月27日から10月27日までのミクロ生物館NEWS
4】<お知らせ>11月の臨時休館日について
◎ 編集後記
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ミクロ生物スペシャルコラム
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*** 繊毛虫テトラヒメナの核膜孔:
2種類の核に運び分けできる理由 ***
岩本 政明 (IWAMOTO、 Masaaki)
情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究センター
専攻研究員
※ 本コラムは以下のURLの図を参照しながらご覧
ください。
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page347.html
私は、繊毛虫(せんもうちゅう:ゾウリムシなどが
含まれる)の一種、テトラヒメナ(Tetrahymena ther-
mophila)の核膜孔(かくまくこう:次段落にて詳述)
の構造と働きについて研究しています。核膜孔の研究
は、繊毛虫以外の生物を用いて盛んに行われています
が、私があえてテトラヒメナを使うには大きな理由が
あります。他の生物を用いて研究していては気が付か
ない核膜孔の働きを、テトラヒメナが教えてくれる
からです。
<細胞核と核膜孔>
真核生物(しんかくせいぶつ)は、生物の全遺伝
情報であるゲノムDNAを細胞核(以下、核と省略)
という細胞内器官に収納しています(これに対して、
明確な核を持たないものを原核生物:げんかくせいぶつ
と呼び、ラン藻や細菌などがこれに当たります)。
核は、核膜に包まれた球状の構造体で、通常細胞の
真ん中付近に1個存在しています。細胞は、細胞内外
のさまざまなシグナルを核内に伝える一方、核内から
は、遺伝情報から読み出されたメッセンジャーRNA
(タンパク質の設計図のコピーが記録されたRNA)を
細胞質に送り出したりしています。このような細胞質
と核の間で行われる情報や物質のやり取りは全て、
核膜上に存在する核膜孔という“あな”を通して
行われます。核膜孔以外に核-細胞質間の通路は存在
しません。
核膜孔は、核膜孔複合体(かくまくこうふくごう
たい)という巨大なタンパク質構造体の中央に形成
された“あな”です。“あな”の内部は、複数の
しなやかなタンパク質がスパゲッティーのように
絡み合って3次元のメッシュ状構造を作っていると
考えられています。小さな分子はそこを自由に通り
抜けることができます。しかしながら、一定の
大きさ(50-60 kDa:キロダルトン)以上の分子の
場合は、そのスパゲッティーのようなタンパク質と
親和性を持つものだけが、3次元メッシュをくぐり
抜けることができ、それ以外は排除されます。
すなわち、核膜孔は特定の分子だけを選択的に通過
させる“ふるい”の働きを持っているのです。
核膜孔タンパク質と親和性を実際に持っている
のは、核-細胞質間輸送を担う運び屋タンパク質です。
トラックと思ってください。核内に入るタンパク質
には、核移行シグナル(NLS)という“荷札”が
付いていて、トラックである運び屋タンパク質は、
この荷札を認識して結合し、核内へ運び入れます。
一方、核外移行シグナル(NES)を持つタンパク質は、
別のトラックによって核から細胞質へと運ばれます。
<繊毛虫の大核と小核を分ける核膜孔>
繊毛虫は、大核と小核という2種類の核をもつ
ことが特徴の原生生物です。繊毛虫には、大核と
小核のどちらにも輸送されるタンパク質がある一方、
どちらかの核にだけ輸送されるタンパク質も数多く
存在します。このようにどちらかの核にだけ存在
するタンパク質が、繊毛虫の核の違いを生み出して
いる重要な成分なのです。したがって、これらの
タンパク質を間違うことなく正しい核へ運び入れる
ことが、生存するために必須となります。
さて、どのようにして間違わずに運び分けが
できるのでしょうか? 荷札のNLSに大核宛のものと
小核宛のものがあり、これらを認識してどちらかの
核へだけ運ぶ特定の運び屋タンパク質が存在する
ことは想像できます。しかしながら、それ以前に
大核と小核の核膜孔の構造が違っている必要が
あります。なぜなら、核膜孔が同じであっては、
運び屋タンパク質が大核と小核を見分けることが
できないからです。
そこで、テトラヒメナの核膜孔の構造を調べたの
ですが、大核と小核の核膜孔には大きな違いは
ありませんでした。しかしながら、核膜孔を構成
するタンパク質の1つ1つを詳細に調べたところ、
一部の構成タンパク質が異なっていることが分かり
ました。違いは核膜孔のごく一部に限られていた
にも係わらず、実は、そのことが運び分けに決定的
な役割を担っていたのです。
違っていたのはヌクレオポリン98(Nup98)という
成分で、核膜孔内部を満たすスパゲッティー状の
しなやかなタンパク質の一種です。このNup98には
大核型のものと小核型のものが存在し、両者は、
運び屋タンパク質と結合する領域のアミノ酸配列が
劇的に異なっていました。そしてその違いは、
間違ったタンパク質が運び込まれることを阻害する
バリアとして機能していたのです。すなわち、大核
のNup98は小核へ運ばれるタンパク質が大核核膜孔
を通過するのを阻止し、同様に、小核のNup98は
大核のタンパク質が小核核膜孔を通過するのを
阻止していました。
このバリア効果のメカニズムを、物理的に説明
することはまだできていません。しかしながら、
2種類の核を持つテトラヒメナを核膜孔研究の材料
に用いたことで、核膜孔タンパク質が特定の核内
輸送に対してバリア効果を持つという、これまで
知られていなかった現象を発見することができ
ました。また、数十種類存在する核膜孔タンパク質
の中で、Nup98が核の機能を左右する最も重要な成分
であることも分かりました。他の1核の生物でも、
Nup98を変化させることで核の機能を変え、細胞を
分化させるような現象が見出されるかもしれません。
「なぜ繊毛虫は2種類の核を生み出し、それらを
維持することができるのか?」これは原生生物学の
長年の大命題となっています。その解明へ向けた
突破口は、核膜孔を研究することで開かれました。
さらなる研究により、繊毛虫の2種類の核の謎に
迫っていきたいと思っています。
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1】11月7日(日)に“科学の祭典in岩国”を開催
11月7日(日)に、岩国市役所1階ホールにて開催
される“科学の祭典 in 岩国”に出展致します。
夏の由宇会場(山口県ふれあいパーク)と同じく、
ミクロ生物の模型作りを中心としたコーナーを
設ける予定ですが、夏とは違う種類の生物たちを
作ることができます。初めて参加される方も、
夏に既に参加された方も、ぜひご参加ください。
ミクロ生物館以外にも、楽しい科学実験が目白押し
です!
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2】(予告)今後の展示更新予定について
今年の冬から来年にかけて、さまざまな企画展示や
展示の増強を予定しております。
出張講義等の増加に伴い、予定に若干の遅れが
生じる場合もございますが、当館にご来館いただく
際の参考に、ぜひご一覧ください。
“貝毒の原因になるプランクトンたち”
(協力:山口県水産研究センター研究員・小柳様)
二枚貝を捕って食べる際、絶対に気を付けなけ
ればならないのが“貝毒”です。その原因を
作り出すちょっと怖いプランクトンたちと、
貝毒を引き起こす仕組みについて、実物展示と
ともにご紹介致します。貝掘りを趣味でされる
方は必見です。
期間:11月下旬開始予定・常設展示(終了未定)
“草を食べる動物の消化を助けるミクロ生物たち”
(協力:東北大学大学院農学研究科教授・中井先生、
同助教・福田先生)
牛や羊は、私たちと違って草をむしゃむしゃ
食べるだけで満腹になり、さらに成長すること
ができます。これはいったいなぜなのか!?
秘密はお腹のなかにすむミクロ生物が握って
います。木を食べて栄養にする昆虫の代表格で
あるシロアリのお話しとともに、草食動物と
ミクロ生物の切っても切れない関係について、
楽しく学習しましょう。
期間:11月下旬開始予定・常設展示(終了未定)
“地球温暖化で身近な存在になってしまうかも
しれない、怖いミクロ生物のお話”
(協力:ひらまつ病院リハビリセンター長・
西村先生 他)
二酸化炭素が原因だ、いや、そうではないと、
今も活発に議論されているものの、着実に
進行している地球温暖化。近い将来、この
影響により、日本にも熱帯性の怖い寄生生物
が棲みつくであろうと考えられています。
“備えあれば憂い無し”ということで、これら
近くやって来るであろう“怖い”寄生ミクロ
生物たちについて学習できる展示を予定して
います。
期間:冬休み頃開始予定・企画展示(終了未定)
他にもいろいろと企画中です!
楽しく学べる展示を
増やしてまいりますので、今後の“深化”にご期待
ください。
いつでも募集中! の以下の学習プログラムも
ご家族やお友達、あるいは団体でぜひご参加ください。
“ミクロ生物採集・観察体験”
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page261.html
“ミクロ生物模型作り体験”
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page327.html
職員一同、心よりお待ち致しております。
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3】9月27日から10月26日までのミクロ生物館 NEWS
※ 詳細は各記事下のURLをご参照ください。
<< 9月24日 日本動物学会 第81回東京大会内
シンポジウムにて発表しました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page479.html
<< 10月2日、3日 兵庫県立大学の皆様がご来館
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page480.html
<< 10月3日 岩国市立神東小学校にて体験教室を開催
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page481.html
<< 10月21日 岩国市立由西小学校にてホタル講演会
が開催されました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page483.html
<< 10月 岩国市科学センター誌「岩国の自然」
執筆中
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page484.html
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4】<お知らせ>11月の臨時休館日について
館内設備保守・点検、職員出張等のため、誠に勝手
ながら以下の日程を臨時休館日とさせていただきます。
なにとぞご了承くださいますよう、よろしくお願い
申し上げます。
11月4日(木)、5日(金)、7日(日)、8日(月)
なお、11月23日は祝日ですので開館致します。
※ 諸事情により、休館日が変更になる場合がござい
ます。最新の情報は
潮風公園ホームページ内予定表
http://www.shiokaze-kouen.net/content/calendar.php
をご覧ください。
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編集後記
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各専門分野の先生方のご協力により、このたび
ついに新たな“子供から専門家まで楽しく学び
検索できる”学習・検索図鑑が完成しました!
年内に、大手出版社より発刊予定です。
“使えなきゃ意味がない”ということで、さま
ざまな工夫をちりばめ、“痒いところまで手が
届く”ものに仕上げました。
来月のメールマガジンにて詳しくお知らせしま
すのでお楽しみに! 自由研究から環境調査ま
で、必携の一冊です。連日の徹夜生活も、あと
少し! です。 (末友)
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●岩国市ミクロ生物館 お問い合わせ先
住所:〒740-1431
山口県岩国市由宇町有家浦
潮風公園みなとオアシスゆう 交流館内
Fax:0827-62-0156(24時間受付)
E-mail:micro@shiokaze-kouen.net
Website: http://shiokaze-kouen.net/micro
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●次号の配信日は 11月26日です。お楽しみに!
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岩国市ミクロ生物館ニュースは、これからも
内容の充実に努めてまいります。
皆様のご意見、ご感想等、お待ちしております。
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発信元: 岩国市ミクロ生物館
館長・メールマガジン担当: 末友 靖隆
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