岩国市ミクロ生物館

岩国市ミクロ生物館 メールマガジンバックナンバー

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 このメールは、過去にミクロ生物館主催の行事に
 参加された皆様、およびミクロ生物館からの情報
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■━━  岩国市ミクロ生物館ニュース  ━━■
       --- 第 5 7 号 ---

  * * * * ミクロの世界にようこそ! * * * *
“本誌はミクロ生物好きな方のネットワークづくり
サポートを目的として発刊されました。ここでしか
得られない情報など特典盛りだくさんで毎月26日
(26日が火曜日の場合は27日)に配信致します。
ぜひご活用ください!”

<目次>

☆ミクロ生物スペシャルコラム
 “今、生まれゆく葉緑体”
  国立環境研究所 生物圏環境研究領域
   NIESポスドクフェロー   中山 卓郎

1】10月21日(木)に“ホタルに関する学習会”を
  開催します

2】11月7日(日)に“科学の祭典in岩国”を開催

3】(予告)10月の展示更新について

4】8月27日から9月26日までのミクロ生物館NEWS

5】<お知らせ>10月の臨時休館日について

◎ 編集後記


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      ミクロ生物スペシャルコラム
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      *** 今、生まれゆく葉緑体 ***

 中山 卓郎 (NAKAYAMA、 Takuro)
  国立環境研究所 生物圏環境研究領域
NIESポスドクフェロー


 小学生のころ、NHKか何かのTV番組で「ミトコンドリア
や葉緑体の起源は、細胞内に取り込まれた別の生物で
ある」という話を初めて耳にしました。“細胞内共生説”
です。その時分はなんとなく聞き流していましたが、
よくよく考えれば、とんでもないことです。

 真核生物(細胞のなかに核を持つ生物)は好気性
(酸素を利用して代謝を行う)のバクテリアを細胞内に
取り込むことにより、好気呼吸の能力を獲得し、さらに
その一部のものはシアノバクテリア(ラン藻類)を
取り込んで、光合成する能力を手に入れたわけですが、
好気呼吸も光合成も、現在の人類の技術では再現できない
ほど高度なシステムです。そして、バクテリアの系統の
中でこれらの機構が進化するまでには、気が遠くなる
ような時間を要したことは想像に難くありません。
しかし、真核生物はそのようにして獲得された能力を、
「バクテリア丸ごとを細胞に組み込む」という離れ業で
自分のものにしてしまったのです。そして、そんな反則
気味で得た能力を大いに行使して、真核生物は現在の繁栄
を享受しています。はたして、他の細胞を自分の細胞に
融合させるという奇想天外な現象はどのようにして行われ
たのでしょうか。他の方々もこのコラムで触れておられる
ように、その答えは未だに明らかではなく、多くの研究者
たちがその解明を目指して研究を行っています。

 さて、今回のコラムでは葉緑体の成立に関してヒント
を与えてくれそうな、ある変わった生物について、僕の
研究も交えて紹介したいと思います。

 皆さんもご存じの通り、葉緑体はこれまでの生物学の
中でも大きく取り上げられ、盛んに研究がなされて
きました。それなのになぜ、その成立の仕組みに関しての
知見が乏しいのでしょうか?

 その原因の一つは「葉緑体の誕生が太古の昔に起きた」
ということでしょう。まだいろんな説がありますが、
現在のところ、「シアノバクテリアが真核生物によって
取り込まれて、その細胞の一部になる」という現象は
一度きりしか起こらなかったとされています。この現象
を私たちは「一次共生」と呼んでいますが、この一次共生
が成立したのは十数億年以上も昔です。そこから現在まで
の長い時間の間に、元シアノバクテリアであった葉緑体
は、宿主である真核生物の細胞と統合し、今では完全に
一つの生物として生きています。

 葉緑体の祖先を、現在見られるシアノバクテリアに
置き換えるとすると、僕たちは葉緑体になる前(シアノ
バクテリア)と葉緑体になった後(現在見られる葉緑体)
を知っているわけです。そこで問題なのは、細胞の統合
の仕組みを知るために肝心な「途中段階」にあるものを
知らないとうことです。現在の葉緑体とシアノバクテリア
を比較することによって、大まかにどのようなことが
起きたのかを推察することはできますが、細かな手掛かり
はその進化とともに失われてしまっています。この点で、
シアノバクテリア→葉緑体の進化に関する研究は大きな
ハンディキャップを背負った形でした。ところが近年、
水の中の小さな生き物が、そんな研究者達の足かせを
軽くしてくれるかもしれないと期待されているのです。

 僕がその生物を初めて見たのは、大学で研究室入って
間もなくのことでした。研究室に入るまで、まともに
顕微鏡をのぞいてみたことがなかった僕は、身の回りの
水の中に棲むミクロの生物たちのユニークさに驚かされる
毎日でした。なぜか僕は青緑色が好きなようで、シアノ
バクテリアをはじめとする青緑色をした生物を見つけては
眺めていたような気がします。ある日、透明な卵型の殻の
中にきれいな青緑色の構造を持つ生き物を見つけました。

 それは一見すると葉緑体を持つ単細胞の真核生物なの
ですが、その青緑色の構造は他の生物に見られる葉緑体
と比較すると、やけにしっかりした構造で、どちらかと
言えばシアノバクテリアそのものに近いという印象を
受けました。先生に尋ねると、その生物はPaulinella
chromatophora(ポーリネラ クロマトフォラと僕は
呼んでいます)という、ガラスの殻の中に住むアメーバ
であるということ、細胞の中にある青緑色の構造が何者
であるのか分かっていない、ということを教えて
いただきました。細胞内共生に以前から興味があった
僕としては、その青緑色もあいまって、その生物が
魅力的に見えたことを記憶しています。

 ほどなくして僕は、Paulinella chromatophoraの中に
ある青緑色の構造(“有色体:ゆうしょくたい”とか
“シアネレ”と呼ばれています)の系統を、DNA配列を
用いて調べてみることにしました。その結果、Paulinella
の有色体は、他の生物に見られる葉緑体とは違い、現在の
シアノバクテリアの系統に含まれることが分かりました。
つまり、Paulinellaは独自にシアノバクテリアを細胞の中
に取り込んだということがわかったのです。

 実は、シアノバクテリアを細胞の中に入れて光合成
させている真核生物は他にもいくつか知られていて、
非常に珍しいというわけではありません。しかし、
その中でPaulinellaが独特な点は、餌を食べたりしない
こと、そして有色体はPaulinellaの細胞の外では生きて
いけない、という点です。シアノバクテリアを細胞内に
共生させる他の生物は、時々細胞の中に新しいシアノ
バクテリアを取り入れますから、餌を食べる(細胞の中
に取り込む)という能力を失っていません。さらに、
その場合取り込まれたシアノバクテリアは元々独立して
生きているものですから、基本的に宿主の細胞の外でも
生きていけるはずです。このことを考えるとPaulinella
と有色体の関係は、ほかのシアノバクテリアの細胞内共生
と比べると「一歩進んだ」関係なのではないか?と
思えます。

 だんだんとPaulinellaに注目する研究者が増えて、
ついには有色体の中の全DNA(ゲノム)が解読され
ました。そのデータによれば、有色体ゲノムはシアノ
バクテリアと比べるとかなり縮小しており、さらには
独立して生きていくのに必要な遺伝子も消失している
ことが分かりました。つまり、宿主細胞とは切っても
切れない共生関係であることが証明されたのです。

 ここで僕が着目したのは「遺伝子の移動の有無」
でした。一般的な葉緑体ではその統合の過程で、葉緑体
が元々持っていた遺伝子が宿主細胞の核に転移したこと
が知られています。はたしてPaulinellaでも有色体の
遺伝子が宿主の核に移っているのか?もし移っている
としたら、有色体はさらに葉緑体に近い存在である、
ということが言えるでしょう。これを明らかにするべく、
僕は宿主核の遺伝子を網羅的に調べて、その中に有色体
から転移した遺伝子がないかを調べ始めました。
すると、ごくごく少数ですが有色体に由来すると思われる
遺伝子がいくつか発見されたのです。そしてこれらは、
さきほどの有色体ゲノムからは消失していた遺伝子
でした。この結果から、Paulinellaでも核への遺伝子
転移がすでに起きており、遺伝子のレベルでの統合が
始まっていることが明らかになったわけです。

 これまでの研究で、Paulinellaに見られる共生関係
は、他には見られないほど深化しており、既に1つの
生物として統合されて生きていることが分かりました。
しかし同時に、葉緑体と比べればその統合の程度は
まだまだ浅いということも言えます。

 Paulinellaの有色体はまさに、これまで知られて
こなかった「シアノバクテリア→葉緑体」という変化
の真最中にあるものなのです。一般的な葉緑体の研究
だけでは解き明かせなかった進化の疑問も、Paulinella
を例に取って調べれば答えが得られるかもしれません。


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1】10月21日(木)に“ホタルに関する学習会”を
  開催します

美しく優雅に光る姿で古来より私たちを魅了させ
続けてきた“ホタル”。
その美しいからだには、さまざまな秘密が隠されて
いることを、皆さんはどれくらいご存じですか?

山口県下関市にある“豊田ほたるの里ミュージアム”
学芸員の川野敬介様のご厚意により、
10月21日(木)の14:30〜15:30の1時間、
当館の近くにある“岩国市立由西小学校 体育館”
にて、小学生やそのご父兄、地域の皆様を対象に、
ホタルに関する学習会を開催致します。

当日はホタルのことなら何でもご存じ、学芸員の
川野様への質問タイムも設ける予定ですので、
“地域のホタルが減って困っている”
“夏頃、葉っぱのあたりが光ってたけど、あれは
ホタル?”
など、ホタルに関することでしたら、この機会に
ぜひご質問ください。

小さな小学校の体育館ですので、大人数となりますと、
立ち見となってしまう場合もございますが、一般の方
のご参加も大歓迎です。

※ 本企画は山口大学・博物館連携協議会、豊田
ほたるの里ミュージアム、岩国市教育委員会、
岩国市立由西小学校のご協力により実現致しました。


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2】11月7日(日)に“科学の祭典in岩国”を開催

11月7日(日)に、岩国市役所1階ホールにて開催
される“科学の祭典 in 岩国”に出展致します。
夏の由宇会場(山口県ふれあいパーク)と同じく、
ミクロ生物の模型作りを中心としたコーナーを
設ける予定ですが、夏とは違う種類の生物たちを
作ることができますので、初めて参加される方も、
夏に既に参加された方も、ぜひご参加ください。

ミクロ生物館以外にも、楽しい科学実験が目白押し
です!


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3】(予告)10月の展示更新について

先号のメールマガジンでもお伝えしましたとおり、
アンケートに寄せられた皆様からの貴重なご意見を
もとに、展示室の大幅改良作業を進めております。

この9月中旬には、第一回目の更新として、
“子供達にとって更に親しみやすい雰囲気づくり”
を進めてまいりました。
展示室の配置を見直したうえで、職員の笠井さんの
手によるかわいらしいキャラクターたちが、皆様を
お出迎え致します。

※ 展示室の改良のようすは
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page476.html
をご覧ください。

なにぶん、猫のしっぽの上げ下げだけで数えられる
ほどの職員が、“いかにお金をかけず、展示室の魅力
を高めるか”を日々追究しながらの作業ですので、
あっと驚くほどの進化、深化をとげるにはもう少し
時間が必要ですが、来月下旬までに、

“貝毒のお話”
“草を食べる動物の消化を助けるミクロ生物”
“地球温暖化で身近な存在になってしまうかもしれ
ない、怖いミクロ生物のお話”

などなど、
“私たちがこの地球上で暮らすうえで、必ず知って
おきたいミクロ生物たちのお話”
を中心に、わかりやすく、楽しく学べる展示を
増やしてまいりますので、今後の“深化”にご期待
ください。

この秋・冬の休日や冬休みにはぜひ、
“ミクロ生物採集・観察体験”
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page261.html
や、“ミクロ生物模型作り体験”
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page327.html
などの各種体験学習プログラムをご予約のうえ、
岩国観光にいらしてください。
職員一同、心よりお待ち申し上げます。


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4】8月27日から9月26日までのミクロ生物館 NEWS

※ 詳細は各記事下のURLをご参照ください。

<< 9月1日(水)
当館が一部撮影協力した「萩博物館UMA展」を見学
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page475.html

<< 9月24日(金)
岩国高校理数科の課題研究発表会が開催されました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page477.html

<< 9月24日(金)
日本動物学会東京大会シンポジウムにて“原生生物の
理科・環境教育利用の有用性”について発表しました
(URLは準備中)

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5】<お知らせ>10月の臨時休館日について

館内設備保守・点検、職員出張等のため、誠に勝手
ながら以下の日程を臨時休館日とさせていただきます。
なにとぞご了承くださいますよう、よろしくお願い
申し上げます。

10月1日(金)、4日(月)、18日(月)

※ 諸事情により、休館日が変更になる場合がござい
ます。最新の情報は潮風公園ホームページ内予定表
http://www.shiokaze-kouen.net/content/calendar.php
をご覧ください。


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  編集後記
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 東京でのシンポジウム発表の機会を利用して、
 国立科学博物館、日本科学未来館という、日本
 を代表する素晴らしい施設の見学(文字通り
 見て学ぶ)に行ってまいりました。職員数や
 規模は100倍以上の差がありますので参考に
 なりませんが、“どのように展示すれば、より
 魅力的なものになるか”、じっくり、しっかり
 学び取ることができました。この経験を今後の
 展示に大いに活かし、多くの方にミクロ生物の
 魅力溢れる世界を体感していただけるよう、
 引き続き努めてまいります。頑張るぞ!(末友)
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●岩国市ミクロ生物館 お問い合わせ先
 住所:〒740-1431
 山口県岩国市由宇町有家浦
 潮風公園みなとオアシスゆう 交流館内
 Fax:0827-62-0156(24時間受付)
 E-mail:micro@shiokaze-kouen.net
 Website: http://shiokaze-kouen.net/micro

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●次号の配信日は 10月26日です。お楽しみに!

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岩国市ミクロ生物館ニュースは、これからも
内容の充実に努めてまいります。
皆様のご意見、ご感想等、お待ちしております。
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発信元: 岩国市ミクロ生物館
館長・メールマガジン担当: 末友 靖隆

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