岩国市ミクロ生物館

岩国市ミクロ生物館 メールマガジンバックナンバー

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 このメールは、過去にミクロ生物館主催の行事に
 参加された皆様、およびミクロ生物館からの情報
 配信を希望された皆様にお送りしています。各種
 お問い合わせ、配信停止についてはこのメールの
 後方をご覧ください。
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■━━  岩国市ミクロ生物館ニュース  ━━■
       --- 第 5 6 号 ---

  * * * * ミクロの世界にようこそ! * * * *
“本誌はミクロ生物好きな方のネットワークづくり
サポートを目的として発刊されました。ここでしか
得られない情報など特典盛りだくさんで毎月26日
(26日が火曜日の場合は27日)に配信致します。
ぜひご活用ください!”

<目次>

☆ミクロ生物スペシャルコラム
 “細胞性粘菌のユニークな生活環と
     それに属する2種の分類学的再検討”
   山形県立博物館  嘱託職員(植物担当)
                川上 新一

1】“赤潮・貝毒プランクトン展”開催中!
  展示生物も日々更新!

2】7月27日から8月26日までのミクロ生物館NEWS

3】<お知らせ>9月の臨時休館日について

◎ 編集後記


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      ミクロ生物スペシャルコラム
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 *** 細胞性粘菌のユニークな生活環と
     それに属する2種の分類学的再検討 ***

 川上 新一 (KAWAKAMI、 Shin-ichi)
     山形県立博物館  嘱託職員(植物担当)


※ 本コラムは以下のURLの図を参照しながらご覧
  ください。
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page346.html


 細胞性粘菌(さいぼうせいねんきん)は真正粘菌
(しんせいねんきん、別名:変形菌)や原生粘菌
(げんせいねんきん)などとともに、アメーバ動物類
に属します。現在までに2科4属約110種が記載されて
います。本コラムでは細胞性粘菌のユニークな生活環
(ライフサイクル)とそれに属する2種の分類学的
再検討について紹介します。

 細胞性粘菌の無性(性別が無い)生殖の生活環は
次の通りです(図1参照)。半数体(細胞を構成する
染色体の数が半数になっている個体)の単細胞
アメーバ(以下、粘菌アメーバと呼ぶ)は、おもに
腐った土のなかで細菌を捕食し、二分裂することで
増殖します。粘菌アメーバは飢餓状態に陥ると集合し、
集合体または偽変形体(pseudoplasmodium)と
呼ばれる多細胞体を形成します。多くの種において
集合体は光に向かって移動する性質(光走性)を有し、
特にこの時期のものは移動体またはその形から
ナメクジ体(slug)と呼ばれます。やがて胞子塊
(ほうしかい)と柄からなる子実体(しじつたい)を
形成します。胞子は好適な環境下で発芽し、再び粘菌
アメーバになります。また、粘菌アメーバは成育環境
が悪い場合にミクロシスト(microcyst)と呼ばれる
休眠体(きゅうみんたい)を形成することが、
いくつかの種で知られています。
一方、有性(性別がある)生殖の存在も知られて
います(図2参照)。交配型(こうはいがた:mating
-type)の同じまたは異なる細胞が融合し、周りの
未融合細胞を捕食して大きくなります。やがて、融合
細胞はマクロシスト(macrocyst)と呼ばれる構造体
を形成し、休眠状態に入ります。ある期間を経て、
減数分裂の後、マクロシストから多数の粘菌アメーバ
が産生されます。

 細胞性粘菌の分類は今まで子実体の形態のみに
よってなされていましたが、その形態が比較的単純
であるためにその分類に混乱が生じています。
細胞性粘菌の中でも特に、Polysphondylium pallidum
とその形態的類似種の分類が混乱しており、代表的種
P. pallidumの定義さえ、これまで曖昧なままでした。
この種は1901年に新種記載されましたが、Raper (1984)
により形態的変異の大きい種として認識され、
それまで別種として扱われていたP. albumが
P. pallidumの異名とされました。しかし、Hagiwara
(1989) によりP. pallidumに複数の分類群の存在が
示され、そのうえSchaapら (2006) の分子系統学的
研究によりP. pallidumと同定されている2株が
別々の系統群に属することが示されました。
このように“真のP. pallidum”が明らかでなく、
そのために既知種や新分類群の分類学的検討が困難
でした。

 以下に私たちの研究グループの研究結果を示します。
“真のP. pallidum”を明らかにするべく、まず、
P. pallidum の代表的な7株の交配関係を調べた
ところ、2つの交配グループ(AとB)が見出され
ました(Kawakami and Hagiwara 2002)。
次に、P. pallidumとP. albumのタイプ産地(新種
記載する際に用いた標本の産地)からの分離株を
用いて交配実験を行った結果、P. pallidumのタイプ
産地から主にグループBが、 P. albumのタイプ産地
からグループAとBがそれぞれ認められました。
本研究において、柄の先端細胞の形態および輪生枝
指数(りんせいししすう:分枝数4以上の節数の
割合)を新たに分類形質として導入し(図3参照)、
これら2交配グループの形態を詳細に比較した
ところ、両交配グループ間に明らかな形態的相違が
認められました。よって、各々の交配グループを
独立した種と判断しました。一方、P. pallidum
およびP. albumのタイプ標本を精査し、かつ原記載
の検討も行った結果、特に輪生枝指数の違いにより
両種が明らかに異なることが示されました。これらの
タイプ標本と両種との形態を比較した結果、主に
輪生枝指数の値の合致により、グループBは
P. pallidumと、グループAはP. albumと各々同定
されました(Kawakami and Hagiwara 2008)。
こうして、P. pallidumおよびP. albumが再定義
されたことにより、既知種の分類学的再検討や
新たに野外から分離された株の分類学的処置が
可能になりました。

【引用文献】
Hagiwara (1989) National Science Museum、 Tokyo. 131 p.
Kawakami and Hagiwara (2002) Mycoscience 43: 453-457.
Kawakami and Hagiwara (2008) Mycologia 100: 111-121.
Raper (1984) The dictyostelids. Princeton Univ. Press.
453 p.
Schaap et al. (2006) Science 314: 661-663.


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1】9月の大型連休までに館内展示がパワーアップ!

まるで生き物のように、少しずつ進化していく
当館の展示コーナー。
これまでの経験と、皆様からいただいた貴重な
ご意見をもとに、さらなるボリュームアップと
わかりやすくておもしろく学べる、小粒でもピリリ
と辛い展示を目指し、この9月に大幅な改良を
行ないます。
9月の大型連休までには展示更新作業が一通り完了
する予定です。ご期待ください!


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2】7月27日から8月26日までのミクロ生物館 NEWS

※ 詳細は各記事下のURLをご参照ください。

<< 7月29、30日 大竹市玖波公民館で夏休み科学教室
        を開催しました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page466.html

<< 8月2日 萩高校科学部がアメーバ観察を行いました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page467.html

<< 8月3日 岩国高校理数科が課題研究を行いました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page468.html

<< 8月4〜6日 自由研究相談会を実施しました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page469.html

<< 8月8日 科学の祭典由宇大会に出展しました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page470.html

<< 8月19、20日 科学の祭典防府大会に出展しました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page471.html

<< 8月22日 山口大学サイエンスワールド2010に出展
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page472.html

<< 8月全般 この夏休みもたくさんの方が自由研究や
      体験学習会に参加されました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page473.html


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3】<お知らせ>9月の臨時休館日について

館内設備保守・点検、職員出張等のため、誠に勝手ながら
以下の日程を臨時休館日とさせていただきます。
なにとぞご了承くださいますよう、よろしくお願い
申し上げます。

9月1日(水)、2日(木)、22日(水)、
27日(月)


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  編集後記
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 今年の夏もたくさんの子供達が、ミクロ生物
 (微小生物)との“未知との遭遇”を経験され
 ました。心から楽しそうに研究に取り組む皆様
 の姿は、我々職員にとって、何よりも大きな
 励みになりました。これを糧に、これからも
 ミクロ生物館が一層魅力あふれる施設となる
 よう努めてまいります。まずは9月下旬。ご期待
 ください。           (末友)
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●岩国市ミクロ生物館 お問い合わせ先
 住所:〒740-1431
 山口県岩国市由宇町有家浦
 潮風公園みなとオアシスゆう 交流館内
 Fax:0827-62-0156(24時間受付)
 E-mail:micro@shiokaze-kouen.net
 Website: http://shiokaze-kouen.net/micro

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●次号の配信日は 9月25日です。お楽しみに!

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岩国市ミクロ生物館ニュースは、これからも
内容の充実に努めてまいります。
皆様のご意見、ご感想等、お待ちしております。
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発信元: 岩国市ミクロ生物館
館長・メールマガジン担当: 末友 靖隆

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