岩国市ミクロ生物館

岩国市ミクロ生物館 メールマガジンバックナンバー

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 このメールは、過去にミクロ生物館主催の行事に
 参加された皆様、およびミクロ生物館からの情報
 配信を希望された皆様にお送りしています。各種
 お問い合わせ、配信停止についてはこのメールの
 後方をご覧ください。
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■━━  岩国市ミクロ生物館ニュース  ━━■
       --- 第 5 4 号 ---

  * * * * ミクロの世界にようこそ! * * * *
“本誌はミクロ生物好きな方のネットワークづくり
サポートを目的として発刊されました。ここでしか
得られない情報など特典盛りだくさんで毎月26日
(26日が火曜日の場合は27日)に配信致します。
ぜひご活用ください!”

<目次>

☆ミクロ生物スペシャルコラム
 “藻類に寄生するカビのお話”
    カナダ British Columbia大学
         博士研究員  関本 訓士

1】夏休みの自由研究に役立つ! ミクロ生物館
  関連案内

2】7月14、15日 岩国高校文化祭にて当館協力
  の研究成果発表会が開催されます

3】萩高校文化祭にて当館協力の研究成果発表が
  行なわれました

4】5月27日から6月26日までのミクロ生物館 NEWS

5】<お知らせ>7月の臨時休館日について

◎ 編集後記


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      ミクロ生物スペシャルコラム
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    *** 藻類に寄生するカビのお話 ***

 関本 訓士 (SEKIMOTO、 Satoshi)
   カナダ British Columbia大学  博士研究員


※ 本コラムは以下のURLの図を参照しながらご覧
  ください。
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page341.html


 自然界には数多くの生物が生息していますが、
それらの生物は互いに関連し合いながら生活して
います。これを私たちは「生物間相互作用」と呼び、
その作用の一つに「寄生(きせい)」があります。
寄生はさまざまな生物の間で広く見られますが、
私たちにとっての寄生の身近な例としては、
ダニやノミ、ギョウ虫などの動物類によるヒトへの
寄生や、水虫(ハクセン菌と呼ばれるカビの寄生に
より起こる)などがあります。また、(ウイルスは
生物学上、生物とは定義されないのが一般的ですが)
インフルエンザや、現在宮崎県で猛威を振るって
いる口蹄疫(こうていえき:口蹄疫ウイルスによる
家畜への感染)なども寄生の一種であるといえます。
今回のコラムでは、私がこれまで研究を行ってきた、
一般的にあまり知られていない“カビ”の藻類への
寄生に関するお話をしたいと思います。

 私が大学院生時代に研究材料として用いた生物の
ひとつに、「壷状菌(つぼじょうきん)」と呼ばれる
生物がいます。壷状菌は「卵菌類(らんきんるい)」
と呼ばれるカビの一種で、海苔(ノリ)に寄生します。
私たちが普段食卓で目にするノリ(乾ノリ)は黒い色
をしていますが、海水中で養殖されている段階では
濃い赤色の海藻で、その色はノリの葉緑体の色に由来
します。しかしながら、この壷状菌がノリの葉体に
寄生することにより、赤色が失われ、結果として
でき上がった乾ノリの色が薄くなってしまい、商品
価値が著しく損なわれてしまいます(図1をご覧
ください)。私は、この壷状菌がノリに対して
どのように寄生しているのか、どうして赤色が
失われるのかという点に興味を持ち、光学顕微鏡や
透過型電子顕微鏡などを用い、寄生の様子を詳細に
観察しました。寄生の様子は図2において模式図で
示されていますので、合わせてご覧ください。
壷状菌のノリへの寄生は、0.005 mmほどの遊走子
(ゆうそうし)と呼ばれる鞭毛を持つ胞子により
行われます。この遊走子は海水中を遊泳することが
でき、ノリ葉体の表面に到達すると、球状のシスト
細胞となります。このシスト細胞は細い管をノリの
細胞内に挿入し(固いノリの細胞壁に穴を開ける)、
自らの細胞質をノリの細胞質内へと移動させます。
ノリの細胞質への侵入に成功した壷状菌細胞は
自分の周辺のノリの細胞質やオルガネラを“食べ”
ながら(周囲のノリ細胞質を分解、吸収しながら)
成長し、最終的にはノリ細胞の全領域を占有します。
その後、壷状菌細胞は新たな多数の遊走子を形成し、
周辺のノリ葉体に再寄生します。この寄生様式は
「細胞内寄生」と呼ばれ、ミクロ生物において
よく見られる様式です。

 壷状菌のノリに対する寄生は全国のノリ漁場に
おいて毎年のように起こり、一度感染が起こると、
その被害は遊走子の拡散により漁場全体に及びます。
一つの壷状菌細胞から数十の新たな遊走子が形成
されることからも、その増殖力の大きさは想像
できると思います。一方、ノリは沿岸域の岩礁
(がんしょう)などにも自生していますが、それら
のノリを顕微鏡下で観察しても、壷状菌の寄生は
ほとんど見られず、また、見られたとしても、
ひとつのノリ葉体に2〜3細胞程度の寄生などで、
大規模な寄生はほぼ見られません(少なくとも私は
見たことがありません)。なぜ漁場においてのみ
大規模な寄生が見られるのか? 理由は、やはり
ノリの「密集度」だと考えられます。ノリ漁場では
ノリ葉体が植え付けられたノリ網が密集して海上に
設置されており、そこでのノリ葉体の密集度は
自然界の比ではありません(海水の循環もされ
にくくなります)。密集したノリ葉体の周辺で一度
寄生が起これば、その拡散の大きさは凄まじいもの
になると思います。しかし寄生菌にとってみれば、
そういう場所は大規模に増殖できる絶好の場所です
し、ひょっとすると、ノリの養殖が始まる前の時代
までは、ノリを枯らすことなく、ノリの葉体と共に
細々と暮らしていたのかもしれません。

 同様の現象は、他の寄生菌においても見られて
います。例として、シュードニッチアという海産
ケイ藻の寄生菌についてお話しします。私は二年前
より、カナダのバンクーバーにある大学で研究を
行っています。カナダの沿岸域では海産ケイ藻
シュードニッチア属のある一種が一時期、大量に
増殖し、赤潮を形成することが知られており、
また、このケイ藻は食中毒を引き起こす毒性物質を
生産することから、カナダ国内で大規模に研究が
進められています。そして、このケイ藻が赤潮を
形成した時に、同時にこのケイ藻に対する寄生菌の
寄生が見られるそうです。私は昨年、指導を担当
していた学生に、大学近くの沿岸域のプランクトン
を採集してもらい、そこに含まれるシュードニッチア
属ケイ藻、寄生菌の細胞数を計測してもらいました
が、その結果は非常に興味深いものでした。
シュードニッチア属ケイ藻の細胞数が少ない時期
には、寄生菌の寄生は全く見られませんでした。
一方、シュードニッチア属ケイ藻が大量に増殖
している時期には例外なく、大量の寄生が観察
されました。この寄生菌はエクトロジェラ属に
属する卵菌類で、これまでに記載のない、新種の
卵菌のようでした。壷状菌と同様に、宿主の細胞内
に寄生し、寄生されたケイ藻の細胞は死んでしまい
ます。海水中の宿主細胞数が多い時期に寄生菌の
寄生が多く見られるというのは、当たり前と言えば
当たり前かもしれませんが、寄生された細胞が
死んでしまうことを考えると、この寄生菌は増え
すぎたケイ藻細胞を殺し、海中のケイ藻種の細胞数
コントロールに寄与している可能性も考えられます。
これら寄生菌のほとんどは研究室内での培養が
難しいこともあり、これまであまり研究が行われて
いませんでしたが、生態学的にも重要であると
考えられ、また、その生物たちを研究し、理解する
ことで、赤潮などにおける新たな対策が可能に
なってくるかもしれません。


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1】夏休みの自由研究に役立つ! ミクロ生物館
  関連案内

今年も夏休みが近づいて来ました! 小・中学生の
読者の皆さんは、今年のテーマを決められましたか?

小さな生き物を使って何かやってみたいけれど
具体的にどうするか悩んでいる方のために、当館では
今年も
“夏休み自由研究お悩み相談会”
を開催します!

今年は夏休み期間にたくさんの出前授業が入っている
こともあり、期間は
8月4日から6日にかけての3日間
のみで、先着順、要予約ではありますが、やる気に
満ちた皆様からのご予約を、スタッフ一同、心より
お待ちしております。

くわしくは
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page287.html
をご覧ください(お申し込みもこちらから可能です)。

館内のラボにて大学並みの高度な実験をすることも
可能ですので、ハイレベルな研究成果をあげて、
全国大会を目指しましょう!


ミクロ生物館には遠くてなかなか行けない! と
いう方もご安心ください。
当館通信販売でも対応しております
“プランクトン濃縮セット”
を使えば、どなたでも簡単・確実に、小さな生物を
たくさんつかまえることが可能です。

くわしくは
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page295.html
をご覧ください。

購入を希望される方は、当館メールアドレス
micro@shiokaze-kouen.net
まで、住所、氏名、購入希望数をご連絡いただければ
対応致します。

これらを活用して、充実した夏休みにしましょう!


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2】7月14、15日 岩国高校文化祭にて当館協力
  の研究成果発表会が開催されます

7月14、15日の2日間、山口県立岩国高等学校
にて開催される文化祭にて、同校生物部さんの研究
成果発表会が開催されます。
テーマは“岩国高校における水の浄化と微小生物”
です。この研究に、当館も技術・設備面で協力させて
いただきました。

高校生たちが力を合わせて頑張った研究成果の発表会
です。近くにお住まいの方はぜひ、岩国高校まで足を
お運びください。

皆様のご来場、心よりお待ち申し上げます。


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3】萩高校文化祭にて当館協力の研究成果発表が
  行なわれました

去る6月13日、山口県立萩高等学校文化祭にて、
当館も微力ながら研究指導等で協力させていただき
ました、萩高校科学部の皆様による研究成果発表会が
開催されました。

アメーバを用いた本格的な研究発表やボルボックスの
光走性に関する研究、海岸植物の植生に関する研究
、酵母菌タンパク質の解析など、高校生離れした発表
の数々は、大学の卒論発表にも負けない立派なもの
で、発表するその姿は既に一人前の研究者、と
いっても過言ではありませんでした。
彼らの将来が楽しみでなりません。

なお、これらの研究成果の一部は、8月22日に
山口大学理学部にて開催予定の“サイエンス
ワールド2010”会場でも発表される予定です。
ご興味のある方はぜひ足をお運びください
(予定の段階ですので変更される可能性はあります)。


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4】5月27日から6月26日までのミクロ生物館 NEWS

※ 詳細は各記事下のURLをご参照ください。

<< 5月29日(土)
広島市こども文化科学館で科学教室を行いました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page448.html

<< 6月5日(土)
岩国市役所の環境イベントに出展しました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page449.html

<< 6月13日(日)
研究協力した萩高校科学部が文化祭で研究成果を発表
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page451.html

<< 6月25日(金)
山口県水産振興課主催「赤潮・貝毒に関する研修会」
が当館にて開催されました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page453.html


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5】<お知らせ>7月の臨時休館日について

館内設備保守のため、誠に勝手ながら以下の日程を
臨時休館日とさせていただきます。
なにとぞご了承くださいますよう、よろしくお願い
申し上げます。

7月5日(月)、12日(月)

なお、7月19日の海の日から8月31日までは
火曜日も開館となります。

海水浴等と合わせてぜひ、潮風公園まで足をお運び
ください。


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  編集後記
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 ここ4ヶ月ほど、夜中もデスクワークをしながら
 つまみ食い、という生活を続けてしまったせいか、
 お腹の肉が気になる状態になってしまいました。
 あと少しで24時間耐久デスクワークからも解放
 されそうですので、梅雨が明けたら健康維持の
 ための運動をしていきたいと考えています。
 夏はイベント、出前授業が山のようにあるので
 体力維持は欠かせません。頑張ります。(末友)
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●岩国市ミクロ生物館 お問い合わせ先
 住所:〒740-1431
 山口県岩国市由宇町有家浦
 潮風公園みなとオアシスゆう 交流館内
 Fax:0827-62-0156(24時間受付)
 E-mail:micro@shiokaze-kouen.net
 Website: http://shiokaze-kouen.net/micro

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●次号の配信日は 7月26日です。お楽しみに!

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岩国市ミクロ生物館ニュースは、これからも
内容の充実に努めてまいります。
皆様のご意見、ご感想等、お待ちしております。
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発信元: 岩国市ミクロ生物館
館長・メールマガジン担当: 末友 靖隆

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