岩国市ミクロ生物館

岩国市ミクロ生物館 メールマガジンバックナンバー

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 このメールは、過去にミクロ生物館主催の行事に
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■━━  岩国市ミクロ生物館ニュース  ━━■
       --- 第 5 1 号 ---

  * * * * ミクロの世界にようこそ! * * * *
“本誌はミクロ生物好きな方のネットワークづくり
サポートを目的として発刊されました。ここでしか
得られない情報など特典盛りだくさんで毎月26日
(26日が火曜日の場合は27日)に配信致します。
ぜひご活用ください!”

<目次>

☆ミクロ生物スペシャルコラム
 “赤潮生物シャットネラの分類の面白さ”
  国立環境研究所 高度技能専門員
               出村 幹英

1】企画展示『山口の湖や川にすむミクロ生物』を
  開始しました! 既存の展示も増強中!

2】2月25日から3月26日までのミクロ生物館 NEWS

3】<お知らせ>4月の臨時休館日について

◎ 編集後記


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      ミクロ生物スペシャルコラム
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  *** 赤潮生物シャットネラの分類の面白さ ***

  出村 幹英 (DEMURA、 Mikihide)
       国立環境研究所 高度技能専門員

 シャットネラは1970年代から西日本を中心に養殖
漁業に大きな被害を引き起こしてきた赤潮形成生物
です。私の所属する国立環境研究所では、40年以上も
前から、多くの先輩たちがシャットネラ赤潮について
の研究を行ってきました。赤潮研究の目標の一つは、
「赤潮発生を予測すること」です。予測をするため
には、シャットネラそのものについて詳しく知る必要
があります。とくに分類はどの研究を行う上でも基礎
になるものです。そのため、いろいろな場所から採取
された、赤潮を形成するシャットネラの培養株に
ついて詳細な形態観察が行われ、分類学的な整理も
進んできました。これまで、形態や形質に関する
詳細な研究が行なわれ、その結果、「シャットネラ」
と呼ばれる生物として7種(Chattonella antiqua、
C. globosa、 C. marina、 C. minima、 C. ovata、
C. subsalsa、 C. verruculosa )が報告されました。
しかし、シャットネラ生物に対して最近行われた
分子系統学的研究(遺伝子の型の比較により
生物どうしの繋がりを明らかにする研究手法)は、
思いもよらぬ知見をもたらしました。今回のコラム
では、その研究を紹介したいと思います。

 まず、C. verruculosa についてです。予想外の
結果は、18SリボソーマルRNA(18SrRNA:細胞小器官
のリボソームを構成するRNAのひとつ)遺伝子の配列
から判明しました。2006年に、Bowers他が
C. verruculosa と他のシャットネラ(C. antiqua、
C. marina、 C. ovata、 C. subsalsa )を含む様々な
藻類の18SrRNA遺伝子配列を比較したところ、
C. verruculosa はディクチオカ藻綱と呼ばれる、
シャットネラとは全く別のグループとされてきた
藻類と高い遺伝的類縁性を示すことがわかったの
です。さらに2007年、Hosoi-Tanabe他は、分子系統
解析に加え、細胞内構造についても詳細に調べました。
その結果、C. verruculosa の鞭毛の基部構造や葉緑体
に含まれるDNAの分布パターンがディクチオカ藻綱と
一致することがわかりました。そこで、この種の
ために、ディクチオカ藻綱にPseudochattonella
(シュードシャットネラ)という新しい属名が作られ、
C. verruculosa はこれまで属していたラフィド藻綱
からディクチオカ藻綱に移されました。
シュードシャットネラの「シュード」には「偽の」
という意味があります。

 同じく18SリボソーマルRNA遺伝子で正体が明らか
になったのが、C. globosa です。C. globosa の
18SリボソーマルRNA遺伝子配列はなんとDictyocha
fibula(ディクチオカ藻綱)と全く一緒になって
しまいました(高野他2007年の研究)。D. fibula は
ガラス質の細胞骨格をもつという特徴的な形態を
していますが、生活史の中で細胞骨格を持たない
細胞ステージをとることがあります。C. globosa と
されていたのは、D. fibula の細胞骨格を持たない
細胞ステージだったのです。

 次の研究は私が中心になって行い、2009年に
発表した研究です。2000年のConnell、2006年の
Bowers他をはじめとする幾つかの研究から、
C. antiqua、 C. marina、 C. ovata の分子系統
解析について、興味深い事実がわかっていました。
それは、18SリボソーマルRNA遺伝子の配列も、
さらに種内の遺伝的変異を調べられるほど変異に
富んだ「ITS」と呼ばれる遺伝子間領域の配列も、
ほとんど違いが見つからないという事実です。
私たちは、この事実の真相解明に挑戦しました。
私たちは、各々の種の培養株を30株以上集め、
ITSよりも変異に富んだ遺伝子や遺伝子間領域を
解析しました。その結果、ようやく3種に遺伝的
違いが存在していることが分かってきました。
ただ、3種間の遺伝的な違いはとても小さなもの
で、さらに交雑の可能性も示唆されました。
私たちは、3種について「独立した種」とする
には不十分であると判断し、「種分化しつつある
変種」とする結論に達しました。

 現在のところ、シャットネラに分類される生物
はChattonella marina var. antiqua、
C. marina var. marina、 C. marina var. ovata
に加えて、C. minima とC. subsalsa になります。
C. minima は、世界で1株しか培養株がないため、
今のところ種の妥当性について、きちんと解析が
できていません。C. subsalsa は、ラフィド藻
全体の分子系統樹の中で、C. marina の3変種と
遺伝的に一番近い種です。しかし、形態的にも、
そして分布域もC. marina とは明確に区別されます
ので、シャットネラ属の独立した種で間違いないで
しょう。

 以上紹介した研究は高次分類群(種や属を
まとめる大きな単位)や学名を変更した分類学的
研究ですが、形態形質や遺伝的な背景を解析する
中で系統(類縁関係)や種分化について考察した
研究でもあります。分類学というと、ただ名前を
付ける学問というイメージがあるかもしれませんが、
正しい名前を付けようとする過程で様々な事実が
わかってくるというのも分類学の面白さだと
思います。

 2007年から2009年はシャットネラの分類に
関する再検討が一気に進んだ年でした。実は
シャットネラ生物は世界各地に分布しているの
ですが、分類の再検討に使われたのはほとんどが
日本産の培養株です。7種から3種に大きく数が
減ってしまいましたが、世界各地のシャットネラに
ついて詳しく調べてみると、新しい種が見つかる
可能性もあるかもしれません。

- 引用文献 -
Bowers et al. (2006) Journal of Phycology
Vol. 42: 1333-1348.
Connell (2000) Marine Biology Vol. 136:
953-960.
Demura et al. (2009) Phycologia Vol. 48:
518-535.
Hosoi-Tanabe et al. (2007) Phycological
-Resarch Vol. 55: 185-192.
高野他 (2007) 藻類第55巻第1号: 71.


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1】企画展示『山口の湖や川にすむミクロ生物』を
  開始しました! 既存の展示も増強中!

3月7日より『山口の湖や川にすむミクロ生物』の
企画展示を開始しました。県内6ヶ所 錦川流域、
美和町の弥栄ダム、府谷川、周南市の水越ダム、
菅野ダム、萩市内のため池で採集したミクロ生物を
なるべく現場そのものの姿を維持して展示しています。

これから夏にかけて、冬の眠りから覚めたミクロ生物
たちでどんどん賑やかになっていくようすを、皆様の
目でお確かめください。

1ヶ月毎に展示サンプルを一新しますので、月ごとの
ご来館をお勧めします。自由研究にも役立つかも!?

ビデオカメラとモニターを用いて、ご家族やお友達と
わいわい話しながら顕微鏡の世界を探検できる展示も
近日公開予定です。ご期待ください!

また、「わたしたちとミクロ生物のかかわり」として
〜くう・くわれるのかんけい(食物連鎖)〜について、
お子様でもイラストで楽しく学べる展示も登場
しました! 作成者は現役の大学生たちです。
「なぜ赤潮が発生するの?」「浄化槽の水はどうやって
きれいにしているの?」など、身近な疑問を解決
できます。

顕微鏡下のミクロ生物は、その大きさ・形もさまざま。
新たに設けた「ミクロ生物の大きさくらべ」で、
その違いを実感してみませんか?

常設展示も、配置を換えて、ちょっぴりきれいに
生まれ変わりました。こちらもぜひご覧ください。

春になると、人がそうであるように、ミクロ生物たち
の活動も活発になります。ご来館のたびに、新しい
ミクロ生物との出会いがあることを願っています。

私たちとミクロ生物たちの意外な関係に関する
驚きの展示も、これからどんどん増やす予定です
のでお楽しみに! ミクロ生物たちのことがもっと
好きになるかも!?

画像付の紹介はこちら↓
http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page333.html


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2】2月25日から3月26日までのミクロ生物館 NEWS

今月もさまざまな活動がありました。詳細は各記事
下のURLよりご覧ください(記事の内容は、不定期に
改良されます! 現時点で写真が無い記事も、
写真や内容が増強されることがありますのでぜひ
ご注目ください!)

<< 2月19日(金)〜 3月8日(月)
高知大学の学生さんが研修に来られました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page432.html

<< 3月7日(日)
新しい企画展示がスタートしました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page433.html

<< 3月12日(金)
岩国高校理数科で出前授業を行ないました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page436.html

<< 3月13日(土)〜 15日(月)
神戸大学の学生さんが研修に来られました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page438.html

<< 3月14日(日)
ふれパクフェスタに出展しました
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page437.html


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3】<お知らせ>4月の臨時休館日について

職員出張のため、誠に勝手ながら以下の日程を
臨時休館日とさせていただきます。
なにとぞご了承くださいますよう、よろしくお願い
申し上げます。

4月1日(木)


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  編集後記
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 ミクロ生物館では現在、これまでに得られた
 データや経験を糧に、学習教材や出張講義、
 館内展示等の改良を進めています。今回ご紹介
 した企画展示もその一環です。これまでは小・
 中・高等学校向けに展開していた出張講義も、
 平成22年度は公民館や他の科学館など、より
 一般向けのプログラムも導入し、より多くの方
 にミクロ生物の魅力を伝えていきたいと考えて
 おります。学習教材も、この夏の発売を目指し、
 大型プロジェクトを進めておりますので、
 ご期待ください。自由研究にも大いに役立つ
 一品です。まだまだ成長途中の当館ですが、
 小規模故のメリットを発揮し、これからも
 社会の役に立つ活動を展開してまいりますので
 何とぞよろしくお願い申し上げます。(末友)
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●岩国市ミクロ生物館 お問い合わせ先
 住所:〒740-1431
 山口県岩国市由宇町有家浦
 潮風公園みなとオアシスゆう 交流館内
 Fax:0827-62-0156(24時間受付)
 E-mail:micro@shiokaze-kouen.net
 Website: http://shiokaze-kouen.net/micro

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●次号の配信日は 4月26日です。お楽しみに!

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岩国市ミクロ生物館ニュースは、これからも
内容の充実に努めてまいります。
皆様のご意見、ご感想等、お待ちしております。
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発信元: 岩国市ミクロ生物館
館長・メールマガジン担当: 末友 靖隆

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