岩国市ミクロ生物館

岩国市ミクロ生物館 メールマガジンバックナンバー

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 このメールは、過去にミクロ生物館主催の行事に
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■━━  岩国市ミクロ生物館ニュース  ━━■
      ---  第 3 8 号  ---

  * * * * ミクロの世界にようこそ! * * * *

“本誌はミクロ生物好きな方のネットワークづくりの
サポートを目的として発刊されました。ここでしか
得られない情報など特典盛りだくさんで毎月26日
(26日が火曜日の場合は27日)に配信致します。
ぜひご活用ください!”


<目次>

☆ミクロ生物スペシャルコラム
 “ミクロ生物の分類”
   フランス・ロスコフ生物学研究所
      博士研究員  大田 しゅうへい

1】田んぼにすむ微小生物たちに癒されながら学べる
  DVD“映像集 淡水のミクロ生物たち”を3月
 に発売します!

2】先月号コラムに登場した“木元博士特製有孔虫
  あみぐるみ”画像を当館HPにて公開中!

3】3月15日の“ふれパクフェスタ”に出展します

4】3月20日(金)、21日(土)臨時休館のお知らせ

5】1月27日から2月26日までのミクロ生物館 NEWS

◎ 編集後記


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      ミクロ生物スペシャルコラム
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      *** ミクロ生物の分類 ***

 大田 しゅうへい(Ota、 Shuhei)
  フランス・ロスコフ生物学研究所 博士研究員

 私は、大学学部生までは、元来のミクロ生物好き
ではありませんでした。むしろ、ミクロ生物を下等
生物と考え、興味の対象から外していました。
どちらかというと、植物好きで、小学生の頃は
ランドセルをドウラン(植物採集に用いる円筒状・
長方形の携帯具)代わりにして、よく草を採集して
いました。さらに、園芸や盆栽にまで手を伸ばし、
月刊「NHK趣味の園芸」を欠かさず愛読していたと
いう、いま考えると、少々不気味な小学生でした。
この、いぶし銀小学生が、その後、大学院生になって
ミクロ生物のディープな世界に触れ、魅了されました。
今回のコラムでは、少々マニアックなミクロ生物の
世界を分類学的視点で紹介したいと思います。

 私は現在、クロララクニオン藻と呼ばれる海産の
単細胞性藻類の分類学的研究を行っています。
この藻類はケルコゾアというアメーバ鞭毛虫が
光合成能を獲得して藻類になったものです。
クロララクニオン藻に限らず、一般的にミクロ生物
には、まだまだ新種がたくさん出てきます。新種に
学名を与えるときは、国際○○命名規約と呼ばれる
ルールに則って名付けられます。現在、ミクロ生物に
学名を与える際の基準となる命名規約には、国際植物
命名規約、国際動物命名規約のふたつが存在します。

 ここで少し、学名と命名法について触れたいと
思います。学名は18世紀中期、リンネが確立した生物
の名付け方であり、属名と種小名の2語から構成され、
二名法といわれます。二名法の以前の学名は、多名法
を用いており、生物の名前は3語以上が普通でした。
つまり、学名イコール記載文、だったものを、リンネ
が思いっきり単純化したものが現在の学名の基礎と
なっています。ところで、この便利で使いやすい学名
が無闇に作られると、混乱をきたします。
混乱を防ぎ、学名の一貫性を守るため、国際命名規約
を作り始めたのは、約100年前で、それ以降「動物
命名規約」と「植物命名規約」のふたつの規約が
別々に発展してきました。この両命名規約は、ミクロ
生物の実態があまり知られていない頃に作られ始めた
ものです。

 しかし、近年の分子系統・微細構造学的研究の知見
の蓄積に伴い、ミクロ生物の実態がだんだん明らかに
なってきました。特に、分子系統学的知見によると、
ミクロ生物は、単一グループとしてまとめられない
ことが分かってきました。ここでは、Adl らが2005年
に発表したシステムに基づいて、ミクロ生物を眺めて
みたいと思います。Adl らは、真核生物(バクテリア
を除いた生物全体)を大きく6つのスーパーグループに
分けるシステムを提唱しました。ここで、スーパー
グループとは、動物界などの「界」のカテゴリーと
相同であると考えてください。
Adl らのスーパーグループには、

(1) Opisthokonta オピストコント生物群
(2) Archaeplastida アーケプラスチダ生物群
(3) Amoebozoa アメボゾア生物群
(4) Rhizaria リザリア生物群
(5) Chromalveolata クロムアルベーラータ生物群
(6) Excavata エクスカバータ生物群

の6群があります。ほとんどの名前は聞きなれないと
思いますので、簡単な例を紹介します。たとえば、
後生動物(いわゆる動物)はメタゾアと呼ばれており、
(1) オピストコント生物群に含まれます。
キノコ(菌類)もオピストコント生物群に含まれます。
また、陸上植物(維管束植物)はプランタエと
呼ばれており、これは (2) アーケプラスチダ生物群
に含まれています。(5) クロムアルベーラータ生物群
は非常に多種多様な生物を含んでいます。たとえば、
藻類で有名な褐藻類(コンブなど)はクロモアルベオ
ラータの一群ですが、実は、ミクロ生物の主役である
ゾウリムシもクロムアルベーラータの一員です。
コンブとゾウリムシが同じグループであるというのも
奇異な感じがするかもしれませんが、ここで強調する
べき点は、真核生物を6群にグルーピングした場合、
そのいずれのグループにもミクロ生物が存在している
ということです。特に (3)(4)(6) の各群は構成員が
すべてミクロ生物のみから成るグループです。
(注:真核生物全体をどう分類するかは、研究者に
よってその見解が多少異なりますが、Adl らの
システムは、国際原生動物学会の委員会が提唱した
もので、現在のところ妥当な体系の一つであると
いえます。)

 上述のように真核生物を眺めてみると、ミクロ生物
は動物界や植物界の括りでは扱えないことが分かり
ます。このため、ミクロ生物の学名を「動物命名規約」
と「植物命名規約」のふたつで規定してしまうのは
無理があるのではないかしら、と思われるかも知れ
ません。確かにその通りで、このため現時点での
妥協案として、光合成をするミクロ生物の場合に
植物命名規約、光合成をしないミクロ生物の場合に
動物命名規約を適用しているようです。
(注:ただし、命名規約で規定されているわけでは
ありません。)冒頭で述べたケルコゾア生物群という
アメーバ状鞭毛虫類のグループがありますが、従属
栄養性ケルコゾア生物群の場合に動物命名規約、
光合成をするケルコゾア生物群(=クロララクニオン
藻)の場合は植物命名規約で規定されています。
このように、系統的には単一グループであるにも
関わらず、光合成をするかどうかで、適用している
命名規約が変わってしまうこともあります。

 また、少々ややこしい例として、ホモニムの問題も
あります。ここで言うホモニムとは、動物命名規約下
でも、植物命名規約下でも有効な同じ学名のことです。
たとえば、Ttiadinium は動物命名規約下で繊毛虫の
属名(有効名)ですが、一方、植物命名規約下で
渦鞭毛藻の属名(正名)でもあります。ただし、
ミクロ生物の場合においても、研究者が研究対象と
して繊毛虫と渦鞭毛藻を取り違えることなどまずない
でしょうし、種小名まで一致しているホモニムはない
でしょうから(もし、存在してもほんの少数)、
この例もさほど深刻な問題ではありません。

 上述のように、ミクロ生物の著しい多様性が明らか
になるにつれ、現行の命名規約の問題点が露呈して
きた、ともいえます。近年、新しい規約として
PhyloCodeが提唱されています。PhyloCodeはリンネ式
階階層分類体系を破棄している点で、完全に新しい
システムといえます。しばらくは、PhyloCodeと従来
の命名規約が共存していくと思われます。ただし、
種の記載に関しては、PhyloCodeが従来の規約
(タイプ法)に取って代わることはないと思います。
今は様子見の段階でしょう。進化・多様性を研究する
際、ミクロ生物は無視できないものですから、今後、
ミクロ生物の分類学者がこのあたりのリーダーシップ
をとっていくのではないかと思われます。

 最近になって、ようやくミクロ生物の多様性の
全体像がぼんやりと見えてきました。ジグソーパズル
で例えると、なんとなく絵が見えてきた段階でしょう
か。でも、まだ見つからないピースがたくさんあり
ます。特に難培養性の種や極小生物の系統の多くは
記載されていません。分類学で一番地味でおもしろい
領域である、野外採集・観察・新種発見が、ミクロ
生物にはたくさん残されています。これから出てくる
未発見のピース(新種)が生物進化のなぞを解くカギ
となるのかも知れません。


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1】田んぼにすむ微小生物たちに癒されながら学べる
  DVD“映像集 淡水のミクロ生物たち”を3月
 に発売します!

顕微鏡観察コーナーにて1月より展示を開始しま
した、生物映像学習教材制作のプロ、(有)EUGLENA
の堀田康夫氏により制作された、微小生物学習番組。

コーナーにて観察できる各生物たちが、いかにして
エサ生物を捕まえるのか、いかにして仲間を増やす
のかなど、短時間、顕微鏡をのぞくだけでは出会う
ことのできない、貴重で衝撃的なシーンが満載です。

また、工夫に工夫を凝らした手法で撮影している
ため、どの生物も、まるで芸術作品のように、
幻想的に映し出されます。
“びっくり!”“癒される”など、来館された方々
からの評判も上々です。

じっくり眺めれば、微小生物物識り博士に、
リラックスして眺めれば、癒し効果抜群の本展示
映像が、このたび、ミクロ生物館オリジナルDVD
として販売されることになりました!

名称は“映像集 淡水のミクロ生物たち”。
販売開始は3月中を予定しております。

販売開始にあたり、制作者の堀田氏より、以下の
コメントをいただきました!

Q1. どのような方に、どのように視聴してほしいか

A1. 子供から大人まで多くの人に見てもらえればと
思います。一人でゆっくり見るのもいいし、友達と、
あるいは親子で見てもらうのも楽しいでしょう。
映像集という名前をつけましたが、画集を見たり
音楽でも聴くように気楽に見て下さい。
ボルボックスには癒しの効果?もあるそうです。

Q2. 見どころはどこですか?

A2. 暗視野照明(背景が黒くなり、生物をはっきりと
した輪郭で観察することができる)での撮影により
自然に近い色で、ミクロの生き物たちの魅力を
引き出せたのではないかと思います。はじめて撮影
された映像もあるようです。資料的な価値のある
映像を多く入れ、それぞれの生き物や自然の全体像
がつかめるようなものをめざしました。

内容の詳細は以下の通りです。

名称:映像集 淡水のミクロ生物たち

価格:2、500円(予価)

収録時間:約60分

収録内容:
 ・田んぼの中の生き物たち
   ・藻類、動物プランクトン(約5分)
   ・ウキクサの下、その他(約5分)
 ・ゾウリムシ
   ・採集、運動など(約5分)
   ・摂食、水の排出(約5分)
   ・増え方(約5分)
   ・天敵たち(約5分)
 ・ボルボックス
   ・体のつくり、運動など(約5分)
   ・増え方(約5分)
   ・細胞群体と多細胞生物(約5分)
 ・ツリガネムシ
   ・体のつくり、天敵(約5分)
   ・様々な種類(約5分)
   ・増え方、移動(約5分)

発売予定日:2008年3月中旬

制作:(有)EUGLENA

販売:岩国市ミクロ生物館

いかがですか? 私(末友)も、小さな生き物に
興味を持っているお子様から学校の先生や研究者、
そして、日常生活のなかに癒しを求める一人暮らし
の方まで、幅広く楽しんでいただける映像集として、
強くお勧めします。かくいう私も、いろいろ疲れた
ときに観ては、微小生物たちの健気に頑張る姿に
励まされています。

癒しのみならず、小・中・高等学校の授業にも
活かせる、“楽しみ、驚きながら学べる”映像集、
皆様も微小生物たちとの楽しいひとときをご家庭
でもお過ごしください。
実物に会いたくなったら、ミクロ生物館まで
ぜひ足をお運びください。


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2】先月号コラムに登場した“木元博士特製有孔虫
  あみぐるみ”画像を当館HPにて公開中!

当館メールマガジン第37号コラム“「有孔虫」
その小さく偉大な生き物”をお読みになり、有孔虫
に関心を抱かれた皆様、大変お待たせしました!

ユニークな姿で私たちを魅了するのみならず、地球の
大気中の二酸化炭素量の調整役として、太古の昔より
大活躍の“有孔虫”。
日本の有孔虫研究をリードする、JAMSTECの木元博士
の手で忠実に拡大、再現された立体模型の写真を
大公開致します!

以下のリンク先にて、そのリアルながらも癒される
姿を存分にお楽しみください。

http://shiokaze-kouen.net/micro/info/page276.html


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3】3月15日の“ふれパクフェスタ”に出展します

3月14日(土)、15日(日)の2日間、当館から車で
15分の山上にある“山口県ふれあいパーク”にて、
“ふれパクフェスタ”が開催されます。
サイエンスショーやヒーローショー、マジックショー
に天体観測、科学工作などなど、子どもたちも大喜び
の企画が盛りだくさんなお祭りです。
このお祭りに、15日限定ではありますが、当館も
観察会を出展する予定です。
ふだん館内では展示していない生物も観察できます。
皆様もぜひご来場ください。

ふれパクフェスタに関する詳細は、以下のURLを
ご参照ください。

http://www10.ocn.ne.jp/~furepaku/index_info.html


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4】3月20日(金)、21日(土)臨時休館のお知らせ

当館職員が両名とも出張のため、3月20日、21日の
2日間、臨時休館とさせていただきます。
3連休の初日と中日ではありますが、どうぞご了承
願います。
なお、翌22日(日)は通常通り営業致します。


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5】1月27日から2月26日までのミクロ生物館 NEWS

※ 詳細は各記事下のURLをご参照ください。

<< 2月16日(月)
岩国市立由宇小学校4年生に出張授業
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page359.html

<< 2月25日(水)
岩国市立由宇小学校4年生 微小生物観察学習
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page361.html


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  編集後記
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 去る25日、近所の小学生たちが多数、学校の
 課外授業で当館まで学びに来られました。
 ミクロ生物館に頻繁に通って鍛え上げたという、
 微小生物博士と呼んでも良いんじゃないかという
 くらいに豊富な知識を持つ生徒さんや、目を
 輝かせながら、微小生物について絶え間なく質問
 してくれる生徒さんが大勢いて、なんだかホッと
 するとともに、とても幸せな気持ちになれました。
 子供たちから分けてもらった元気を力に変え、
 これからもより魅力的な施設にすべく、励んで
 まいります!          (末友)
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 潮風公園みなとオアシスゆう 交流館内
 Fax:0827-62-0156(24時間受付)
 E-mail:micro@shiokaze-kouen.net
 Website: http://shiokaze-kouen.net/micro

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●次号の配信日は 3月26日です。お楽しみに!

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内容の充実に努めてまいります。
皆様のご意見、ご感想等、お待ちしております。
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