岩国市ミクロ生物館

岩国市ミクロ生物館 メールマガジンバックナンバー

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■━━  岩国市ミクロ生物館ニュース  ━━■
      ---  第 2 3 号  ---

  * * * * ミクロの世界にようこそ! * * * *

“本誌はミクロ生物好きな方のネットワークづくりの
サポートを目的として発刊されました。ここでしか
得られない情報など特典盛りだくさんで毎月26日
(26日が火曜日の場合は27日)に配信致します。
ぜひご活用ください!”


<目次>

☆ミクロ生物スペシャルコラム
 “見えないところに住む原生動物”
  日本獣医生命科学大学獣医学部 教授 今井 壯一

1】瀬戸内海に出現した南方系渦鞭毛藻の培養に成功
 しました

2】10月27日から11月26日までのミクロ生物館 NEWS

◎ 編集後記


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      ミクロ生物スペシャルコラム
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  ***** 見えないところに住む原生動物 *****

 今井 壯一 (IMAI Soichi)
     日本獣医生命科学大学 獣医学部 教授

 皆さんは原生動物という言葉に何を想像する
でしょうか。ゾウリムシ?ツリガネムシ?それとも
アメーバ? はい、正解です。でも、原生動物は
池や沼、あるいは海に住んでいるものばかりでは
ありません。人や動物の体の中に住み、病気を
起こさせる原生動物もたくさんいます。代表的な
ものは熱帯の人々にマラリアという病気を起こす
プラスモディウムという原生動物です。マラリアは
今でも毎年 2億人の人が感染し、200万人の命が
失われているといわれています。

 今回は、病気を起こす原生動物ではなく、ちょっと
変わった場所に住む原生動物を紹介したいと思います。

 牛や羊は草を食べて生活しています。草食動物
だからあたりまえ? でも、ちょっと考えてみて
下さい。草の中にはそれほど沢山の栄養素が含まれて
いる訳ではありませんし、草の細胞はセルロースと
よばれる消化しにくい、堅い物質で囲まれています。
それなのに、牛は草だけであの大きな体やタンパク質
に富んだ牛乳を作ることができます。牛はなぜ、
タンパク質が少ない、堅い細胞を分解・利用して生活
することができるのでしょうか。

 牛が大量の草を食べ、それを反芻(はんすう)する
ことはご存知ですよね。これは、いったん食べた草を
口の中に戻して、平らな歯でよくすり潰すことに
よって、堅い草の細胞を細かくし、栄養素を吸収
しやすくするためです。でも、歯ですり潰すだけでは
小さな細胞から十分に栄養素を取り出すことが
できません。牛や馬などの大型草食動物の消化管には
大きく膨らんだ部分があり、実はこの中にたくさんの
細菌と原生動物が住んでいます。牛が歯で壊せ
なかった草の細胞を酵素を使ってさらに分解し、牛に
吸収しやすい物質に変換しているのが、これらの細菌
や原生動物たちなのです。牛の胃は 4 つに分かれて
いますが、私たちと同じ胃液を分泌するのは一番後ろ
の第四胃だけで、ほかの 3 つは吸収だけを行う袋に
なっています。そのうち一番前の胃が一番大きく、
容積は 150 〜 200 リットルにもなります。この
第一胃をルーメンといいます。ルーメンの中には
内容 1 ml あたり 20 〜 50 万の原生動物と
50 〜 100 億の細菌が住んでいます。牛 1 頭あたり
400 〜 1000 億匹の原生動物が住んでいることに
なります。

 これらの原生動物はゾウリムシやツリガネムシと
同じ、繊毛虫類(せんもうちゅうるい)に属する
ものですが、変わった形のものが多く、反芻動物の
ルーメンの中にしかいないグループからなっており、
ルーメン以外では生活できません。これらを一括して
ルーメン繊毛虫とよんでいます。ルーメン繊毛虫は
現在までに 400 種くらいが知られていますが、
野生の反芻動物にはまだゴロゴロ新種がいる可能性が
あります。いろいろな反芻動物のルーメンの中に
住んでいる原生動物の種類を観察すると、ちょっと
面白いことがわかります。それは、全世界の動物から
共通に出てくる種類と、特定の動物だけに住んでいる
種類がいることです。例えば、オピスソトリクム
・ヤヌスという種類はアフリカのアンテロープ類
にしかみられませんし、エピディニウム
・エカウダツム・ギガスという種類はトナカイの
ルーメンだけに住む種類です。これは何を意味して
いるのでしょうか。一つの仮説として、牛や羊、
シカやトナカイ、アンテロープ、キリン、それに
ラクダなどの草食動物は同じ先祖から進化してきた
と考えられていますが、これらのご先祖様も草を
食べて生活していたとすると、やはり胃の中に草の
繊維を分解する細菌や原生動物をもっていたと
考えられます。そこからいろいろな草食動物が進化
していく過程で、胃の中に住んでいた原生動物も
胃の中の環境に適応して進化していったと考えられ
ないでしょうか。このように考えると、胃の中に似た
種類構成をもつ動物は親戚関係が近い、ということに
なり、原生動物の種類を調べることにより、宿主
である動物の類縁関係を類推(るいすい)することが
できます。もっとも同じ生活環境(例えばアフリカの
草原)で一緒に生活している草食動物では、ある種類
の原生動物が途中で入り込む、ということも考え
られますので、簡単ではありませんが。ちなみに、
いわゆる草食動物のほとんどは有蹄類(ゆうているい)
とよばれるものですが、それとは進化の道筋が異なる
ゴリラやチンパンジー(草食です)の大腸にも同じ
グループの原生動物が住んでいます。ただし、ゴリラ
やチンパンジーにみられる種類は特有の種類で、
ほかの草食動物にはみられません。さて、これは
どう解釈したらよいのでしょうか。こういった疑問を
一つ一つ解決していくことで、草食動物という、
大きな一群の動物が地球上でどのような歴史を
たどってきたかが明らかにされるかもしれません。

 ともあれ、牛をはじめとする草食動物の消化管の中
では今日も原生動物がせっせと宿主が食べた草を分解
して動物が利用しやすい物質をつくり、動物に提供
しているとともに、増えた分の原生動物体自身を
動物のタンパク源として提供しています。私たちの
見えないところで原生動物は草食動物、ひいては
それらを利用する私たち人類のために働いています。


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1】瀬戸内海に出現した南方系渦鞭毛藻の培養に成功
 しました

2007年10月20日(土)の“赤潮プランクトンマップ
の会”の活動にて採集された、南方系のコクロディ
ニウム・コンボルタム(Cochlodinium convolutum)
が、当会の講師である(独)水産総合研究センター
瀬戸内海区水産研究所の松山幸彦主任研究員によって
単離培養されました。
南方系渦鞭毛藻である本種が10月下旬の瀬戸内海で
発見されるのは珍しく、今回の培養成功により、
新たな知見が見い出されるかもしれません。

詳細は以下のURLをご参照ください。
http://shiokaze-kouen.net/micro/club/akashio/


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2】10月27日から11月26日までのミクロ生物館 NEWS

※ 詳細は各記事下のURLをご参照ください。

<< 10月28日(日)
「YOU・ゆう・フェスタ 2007」で特別観察会を開催
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page305.html

<< 11月2日(金)
山口県立田布施農業高等学校で出前授業を実施
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page306.html

<< 11月7日(水)、8日(木)
岩国市立由宇中学校 2 年生が職場体験
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page307.html

<< 11月9日(金)
ミクロ生物館専門職員 2 名が県の貝毒研修会に参加
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page308.html

<< 11月17日(土)
赤潮プランクトンマップをつくる会 観察会
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page310.html

<< 11月16日(金) 〜 18日(日)
日本原生動物学会第40回大会(富山)にて研究発表
http://shiokaze-kouen.net/micro/news/page311.html


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  編集後記
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 今年の春にプランクトンネットに引っ掛かった
 体長 5 mmほどの小さな小さな稚魚。カイアシ類
 や珪藻を餌にして、水槽で飼っていたのですが、
 いつのまにやら体長 10 cmと、飼い始めた頃の
 20倍ほどの大きさにまで成長してくれました。
 どうやらクロダイの稚魚のようです。餌の入った
 容器を手に取るだけで寄ってきてくれる、とても
 愛らしいお魚達です。いつかは親(飼い主)離れ
 するときもあるのでしょうが、それまでしっかりと
 成長を見守ってあげようと思います。 (末友)
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●次号の配信日は12月26日です。お楽しみに!

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