岩国市ミクロ生物館

岩国市ミクロ生物館 メールマガジンバックナンバー

◇=======================================================================◇
 このメールは、過去にミクロ生物館の行事に参加された皆様、およびミクロ生物館から
 の情報配信を希望された皆様にお送りしています。
 各種お問い合わせ、配信停止についてはこのメールの後方をご覧ください。
◇=======================================================================◇

■━━━━━━━━━━  岩国市ミクロ生物館ニュース  ━━━━━━━━━━■
              ---  第12号  ---

     * * * * * * * * * * ミクロの世界にようこそ! * * * * * * * * * *

“本メールマガジンはミクロ生物好きな方のネットワークづくりをサポートすることを
目的として発刊されました。ここでしか得られない特別な情報など、特典盛りだくさん
で毎月26日(26日が火曜日の場合は27日)に配信いたします。ぜひご活用ください!”


<目次>

 ☆ ミクロ生物スペシャルコラム
    “原生動物に学ぶもの”  奈良女子大学理学部生物科学科 教授  春本 晃江

 1】 岩国市由宇町にて“ミクロ生物館第一回公開講演会”が開催されました

 2】 ミクロ生物館の新館長に中島篤巳氏が就任しました

 ◎ 編集後記



☆----------------------------------------------------------------------☆
             ミクロ生物スペシャルコラム
☆----------------------------------------------------------------------☆

             ***** 原生動物に学ぶもの *****

   春本晃江 (HARUMOTO Terue)     奈良女子大学理学部生物科学科 教授


 生物は、時にはあっけないほど弱く繊細な存在だ。また、あるときには生物はしたたか
で強く、恐ろしいほどのしぶとさを見せてくれる。この生物のもつ二面性に私は魅かれる。

 秋も深まったある夜、私は顕微鏡をのぞいてぼうぜんとしていた。私の前には高さ5cm
くらいの小ぶりのガラスびんがある。これは、原生動物の系統を保存している容器なのだ。

 私の研究室では何種類かの原生動物を飼っている。中でも、ブレファリズマという名前
の赤い色をした繊毛虫の系統をいくつも持っていて研究を進めている。ブレファリズマ
は、大量に増やして実験に用いるほかは、分裂させすぎて老化して死んでしまわない
ように、あまり餌を与えずに飼う。小型のガラスびんに何十匹かの細胞とうすめた培養
液を入れ、熱して殺菌した米粒を2−3個入れておく。やがて、米粒がとけてバクテリア
が増え、それを餌としてブレファリズマが増える。特に恒温器に入れる必要もない。
1ヶ月に一度位の頻度で液を半分捨てて、米粒がなくなっていれば1−2粒加え、再び
もとの量まで生理的塩類溶液を薄めたものを加える。「○○の水」などのミネラル
ウオーターでも構わない。こうしておけば1−2ヶ月はゆうに大丈夫だ。系統を維持して
おくのに最も簡便な方法で、ゾウリムシも同じようにして維持できる。

 しかし、今回の場合は、前に世話をしてからすでに4ヶ月が過ぎようとしていた。
多くの容器では液が少なくなった程度で、まだ細胞は生き残っていたが、一部の容器は
すっかり液がなくなってひからびていた。中のひとつは、私の研究室にしかない系統
だった。世界中どこを探しても、他にないのだ。私の胸に後悔が湧き上がった。この
ところ極端に忙しく、ブレファリズマに愛情を注ぐ時間がとれていなかった。そのことを
毎日気にしていた。いつかこんなことにならないかと恐れていた。別に遊んでいたわけ
ではない。毎日の仕事の忙しさに加え、家族の入院やもろもろの雑用。その日その日の
締切に追われ、睡眠時間も満足に取れない日々が続き、私はいつも疲れていた。
つい世話を先延ばしにしてしまったのだ。しかし、そんなことは理由にならない。もっと
早く世話をすべきであったのだ。もっと早く。何ヶ月か振りで私は正気に戻った。でも、
もう悔やんでも取り返しのつかないことだった。無為に過ごしてしまった日々の記憶が
ぐるぐるめぐった。時計のネジを無理やり逆方向に回して過去にもどりたい、と思った。
どうして何よりも優先させてこの仕事をやらなかったのか。なぜ、まだ大丈夫という甘い
考えに流されてしまったのか。どうにもならないとわかっていても、生命のかけらでも
残っていないかと私は容器の隅々まで目を凝らした。バクテリアが増えて膜状になった
ものが乾燥してこびりついているほかは何も動くものもない。

 そのときだ。私の目の端に、容器の底の黒くて丸いものが目に映った。まてよ!と
思った。シストだ。ブレファリズマはシスト(嚢胞)を作る。シストの中でブレファリズマは、
ほとんど代謝活性のないまま保たれているという。シストは原生動物が過酷な環境を
生き延びるための手段と考えられている。こんな状況でシストが形成されていた。
ミネラル水を足し、わずかに米粒を入れる。ひからびた容器の底が潤っていく。
私はこの容器をそっと培養器に入れた。

 そして二週間後、同じ容器を顕微鏡下にもってきて、のぞいた私は思わず声を
上げた。
前に見たときは一匹もいなかった容器の底で、数匹の赤いものがうごめいている。
ブレファリズマだ!シストから脱出したのだ。鮮やかな赤い色をしたブレファリズマは、
今誕生したばかりのような初々しい姿を呈している。生きている!胸に熱いものが
こみ上げてきた。ゆらゆらとうごめく数匹のブレファリズマは、私を翻弄するかのよう
に、米粒の影に隠れたり、またくるくると回転して、視野に戻ってきたりした。
ブレファリズマは私に語っているように思えた―われわれはもっと過酷な環境を乗り
切って何億年と生きてきたんだ、ちっぽけな人間のいいかげんな取り扱いなんかで
死ぬわけがないだろう― 顕微鏡を通して、私自身がブレファリズマに観察されている
ような不思議な感覚におちいった。

 人間の英知がまだおよばないところに、十数億年も生き抜いてきた知恵が詰まって
いる。それを知りたい。原生動物が語ってくれる生命の可能性を秘めた物語に、素直
に耳を傾けたい。それが、これまで私を原生動物の分野につなぎとめている根本に
流れるものなのだ。


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

1】 岩国市由宇町にて“ミクロ生物館第一回公開講演会”が開催されました


                           参加者  末友 靖隆

2006年11月20日、岩国市由宇町の岩国市由宇文化会館にて、ミクロ生物館第一回
公開講演会 “生物の寿命について考えてみよう” が開催されました。

講師は、ゾウリムシを用いた老化・寿命研究の第一人者である、奈良女子大学名誉
教授の高木 由臣博士です。

“寿命とは何なのか?” “寿命と生物進化の関係は?”

ミクロ生物館が扱っている単細胞生物にも、寿命があるものと無いものがあります。
寿命が無いと考えられているミドリムシなどは、放っておくと、環境条件が悪くなるまで
延々と分裂し、増え続けますが、生存に適さない環境になるまで延々と分裂して増えて
しまうため、ひとたび環境が悪くなると、とたんにほとんどのミドリムシが死んでしまい
ます。バクテリアを含む、原始的な単細胞生物は皆、このような増え方をすると考え
られています。
高木先生のお言葉を借りると、“燃料が尽きたときのみ停止できる、ブレーキを持た
ない車”なのです。

これに対し、ゾウリムシなどは、細胞に“分裂抑制機構”が備わっているため、一定回数
分裂後は、一切分裂しなくなります。そのまま長期間放置しておくと老衰によって死んで
しまいますが、それまでに、異性のゾウリムシと接合し、お互いの遺伝情報を交換しあう
ことで、クローンではない、新しいゾウリムシに生まれ変わることができます。
“分裂抑制機構”のおかげで、“ブレーキを持たない車にブレーキが備わった”のです。

この、ゾウリムシが持つ“分裂抑制機構”は、もちろん、私達人類にも備わっており、
多細胞生物になって新たに獲得した“細胞死”の能力とともに、生きるうえで大変重要
な役割を果たしているのです。

以上、講演内容のほんの一部を抜粋(個人的な考えも混ざっているかもしれませんが)
してお話しさせていただきましたが、当日の講演では、このほかにも、魅力的な話題の
オンパレードでした。

私の拙い文章で、正確に魅力を伝えることができたか不安ではありますが、高木先生
のお話に関心を抱かれた方は、先生の著書
“生物の寿命と細胞の寿命 ゾウリムシの視点から” 平凡社 自然叢書19
を読まれることをお勧めします(当館の図書コーナーにも置いております)。

普通に書けば難解なはずの内容も、私が本文中に引用させていただいた文のように、
高木先生による解りやすい例えで表現されており、どなたにも読みやすく、おもしろい
内容となっております。

“〇〇に関することをもっと詳しく学んでみたい”
“〇〇先生の講義をきいてみたい”
このようなご要望がございましたら、お気軽にミクロ生物館までご相談ください。

今後も“生命の魅力を誰でも気軽に体感できる”イベントを、さまざまな形で企画・開催
してまいりますので、よろしくお願い申し上げます。


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

2】 ミクロ生物館の新館長に中島篤巳氏が就任しました

12月より、岩国市ミクロ生物館の館長に、岩国市由宇町在住で医師の中島 篤巳氏
が就任致しました。
中島館長指揮のもと、当館の更なる発展に、職員一同、今後も全力を挙げて励んで
まいります。

新体制となったミクロ生物館の活動に、ご期待ください。


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*



★―――――――――――――――――――――――――――――――――――
  編集後記
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 今年もあっというまに時間が過ぎ、気が付けば、いつのまにか年末。NHKの某番組
 (紅白歌合戦ではなくてその後)を観ながら新年を迎えるのが楽しみな時期になりま
 した。今年の冬は、温かくなったり急に寒くなったりと、気温の変化が激しい日が続い
 ており、体調を崩し勝ちの方も多いかと思います。また、その影響か、貝の食中毒で
 有名な、ノロウイルスが猛威をふるっているようです。ノロウイルスは、感染力が強く、
 症状も身体の抵抗力が落ちているときには命を落としかねない危険なものです。
 どうか皆様、健康第一で新年をお迎えください。 
 関係者の皆様ならびに住所をご登録されている皆様につきましては、毎年恒例、
 ミクロ生物館オリジナル年賀状をお送りさせていただきます。ご期待ください。
 来年も皆様にとって素晴らしい一年でありますように          (末友)
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――★


■■■メールの配信停止について■■■
本メールサービスの配信停止を希望される方は、
“件名” 欄に “配信停止希望”
とご記入の上、本メールをそのままご返信ください。
(本文は空のままで結構です)


●岩国市ミクロ生物館 お問い合わせ先
住所:〒740-1431
      山口県岩国市由宇町有家浦 潮風公園みなとオアシスゆう交流館内
電話:0827-62-0155 (受付時間:9:30〜17:30)
FAX:0827-62-0156 (24時間受付)
  E-mail:micro@shiokaze-kouen.net
  HP: http://shiokaze-kouen.net/micro

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
●次号の配信日は1月26日です。お楽しみに!

----------------------------------------------------------------------------
岩国市ミクロ生物館ニュースは、これからもご提供する情報やサービスを充実
させてまいります。ご期待ください。ご意見、ご感想、どしどしお待ちしております。
----------------------------------------------------------------------------

発信元: 岩国市ミクロ生物館
メールマガジン担当 (文責): 末友 靖隆

Copyright(c)2006 Yuu Microlife Museum. All rights reserved.
*本メールマガジンの無断複製・転載を禁止します。
岩国市ミクロ生物館 山口県岩国市由宇町潮風公園みなとオアシスゆう交流館内 TEL 0827-62-0160 [メール]